羽田 健亮(はだ たけあき)
トラインスミス株式会社 代表取締役
1985年、新潟県胎内市生まれ。東北福祉大学総合福祉学部情報福祉学科卒。大学在学中から障がい者福祉の現場に携わり、卒業後も障がい者就労支援企業でITを活用したシステム管理を担当。実家の農業を継ぐために新潟に帰郷後、2018年に「トラインスミス株式会社」を創業。障がいのある児童・生徒を対象とする放課後等デイサービス施設「カレイドスクエアパーク」を新潟の胎内市と村上市で運営、胎内市では大人向けの就労移行支援事業も手掛けている。
平等な社会の実現に向けて、障がいがあっても自立して生活していける経済的基盤が必要です。現在ではそれを支援する制度も複数の法律に基づいて整備されており、大企業を中心に、障がい者雇用も増えました。一方で、地方や中小企業では、まだまだ障がい者雇用に門を閉ざしているところも少なくなりません。そんな障がい者の就労支援を新潟の地で行っているのが、トラインスミス株式会社です。トラインスミスが行っているオンリーワンの障がい者就労支援とはどういうものなのか、代表取締役の羽田さんにお伺いしました。
1冊の本との出会いで気づいた「障がい者福祉×IT」の可能性
--本日はよろしくお願いします。早速ですが、羽田さんが障がい者の就労支援分野で起業されたきっかけをお聞かせください。
私自身が育った環境が大きいと思います。私は3歳で父を亡くし、母が女手ひとつで育ててくれました。その母が就いていたのが、福祉の仕事でした。母への憧れもあって、中学生の頃には、福祉の道に進もうと考えていました。
障がい者福祉の道を選んだのは、高校3年生のときに出会った『神様からの贈り物』という本がきっかけでした。筋ジストロフィーで日々、筋力が衰えて鉛筆も持てなくなった作曲家の主人公が、パソコンと出会ったことで幸せをつかんでいく小説です。この小説を読んでからは、ITが今後の障がい者福祉に役立つと考えるようになり、大学も情報福祉学科を選んで、ITを活用した障がい者福祉について学びました。
大学4年生のときには、障がい者の就労支援にいち早くリモートワークを採り入れていたLITALICOという企業にインターンで入り、卒業後はそのままLITALICOに就職しました。その後、実家の農業を継ぐために新潟に帰郷したのですが、そこでもLITALICO時代の同僚が福島で立ち上げた、障がい者の就労支援ビジネスをお手伝いしていました。
そして、今度は自分自身がトップとなって、地元の新潟で、障がい児就労支援を行おうと、2018年、トラインスミス株式会社を立ち上げました。当時は、子どもが生まれたばかりで起業にも不安があったのですが、妻が応援してくれたことが嬉しかったですね。
発達障がいの子どもたちの社会性を育む
--現在の事業内容についてお伺いできますか。
新潟県の胎内市や村上市で運営している「カレイドスクエアパーク」で、2つの事業を行っています。
1. 放課後等デイサービス
放課後等デイサービスは、児童福祉法に基づくもので、小学校、中学校、高校に通っている障がいのある児童を放課後や休日にお預かりし、生活能力向上のために必要な訓練、社会との交流の促進などを行っています。
2. 就労移行支援
就労移行支援は、福祉施設で支援を受けながら仕事をするのではなく、一般企業への就労を希望する、65歳未満の方を支援するサービスです。就職に必要な知識や能力の向上のために必要な訓練を行ったり、適正に応じた職場を探したり、職場に定着するために必要な支援を行ったりしています。
--放課後等デイサービスに通うのは、どういうお子さんが多いのですか。
発達に特性のあるお子さん、一般的には、発達障がいと呼ばれている子どもたちが多いですね。一口に発達障がいといっても、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障がいなど、さまざまです。また、グレーゾーンと呼ばれる子どもたちも多く、はっきり障がいとはわからない場合もあります。
いずれも、幼児のうちから行動面や情緒面に普通の子どもとは異なる特徴があります。そのため、親が育児の悩みを抱えたり、子ども自身が生きづらさを感じたりすることもあります。
この子たちは、学校に守られている間は、まだ何とかやっていけます。ですが、社会に出ると、社会性が欠如していると判断されることが多くあります。そのために仕事に就けなかったり、就職できても、すぐに辞めてしまったりすることが少なくありません。ですから、放課後等デイサービスでは、子どもたちの社会性を養うことを主眼に置いています。
--「社会性」とは、具体的にどういったことを指すのでしょうか。
社会性とは、相手が何を考えているのか、何をして欲しいのかといったことをくみ取って行動できることです。社会は、自分以外の多くの人が住んでいる世界です。そこで、みんなと仲良くやっていくためには、相手の立場を理解する社会性が必要です。その社会性を養うために、なるべく実社会との交流の機会を増やすようにしています。
たとえば、胎内や村上では、なるべく地域の人々と触れ合う機会を設けるようにしています。子どもたちが描いた絵を地元の店舗に飾ってもらったり、作品を店頭で販売してもらったりもしています。また、子どもたちが描いた絵が、市の清掃車の車体にプリントされて市内を走り回っていたりもします。
--貴社の独自性や強みとは、どういうところでしょうか。
やはり、子どもたちが地元と密着しながら、自分を助けてくれるような人と出会う機会を創出しているところだと思います。
最近では、子どもたちが、地元の企業とコラボレーションもしています。子どもたちの作品が、実際に販売するお茶やお酒のラベルに採用されているのです。子どもの作品というとチープなものを想像されるかもしれませんが、パッケージデザインとしてもおしゃれで、採用してくださった企業の担当者の皆さんにも喜んでもらっています。こうした活動を積極的に行っているのは、私たちだけではないでしょうか。
子どもたちの作品を通して、障がいへの理解を促す
--羽田さんの今後の中長期的な事業展望をお聞かせください。
現在、施設があるのは、胎内と村上だけですが、今後は、もっと広げていきたいですね。放課後等デイサービス施設には定員があって、1つの施設でお預かりできる子ども数の上限が決められています。そのため、多くの子どもを預かるには施設を増やすしかありません。今後、他の場所でも施設が運営できれば、その地域の子どもたちと地元の企業がコラボレーションすることも可能になります。
また、これまでは小学生の放課後等デイサービスと、18歳以上の就労移行支援が中心でしたが、中学生や高校生の就労支援も行っていく予定です。特に高校生の中には、卒業後に社会に出ていく生徒さんがたくさんいます。そうした生徒さんが、すぐに社会になじめるような支援を行っていきたいですね。
--最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?
障がい者の人たちが作った作品や、それとコラボした商品を、自社のECサイトなどで販売していただける方がいらっしゃいましたら、お声かけいただければありがたいです。また、作品を商品のラベルやパッケージに起用していただける企業様も募集しています。
作品が商品化されて、障がい者の才能や個性を活かした作品が世の中に広まれば、障がいに対する印象を良い方向へと変えることができます。企業様にとってもCSR(企業の社会的責任)活動の一環になるのではないでしょうか。障がいのある人々の環境改善のためにも、ご協力をよろしくお願い致します。
--本日はどうもありがとうございました。
トラインスミス株式会社
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