益満 ひろみ(ますみつ・ひろみ)
株式会社サンホープ 代表取締役
福岡県出身。1978年にパイオニア株式会社本社へ入社。1984年に単身渡米し米国三菱銀行 ヒューストン支店に入社。 その後1989年にMachinery Distribution Inc. (三菱商事100%現地法人)へと転職し1992年にSun Hope,U.S.A.Inc.を設立。2003年に株式会社サンホープ 代表取締役社長に就任。
日本の農業には沢山の課題があります。離農や高齢化、若手の担い手不足、食料自給率の低下、耕作放棄地の拡大、海外の安価な農産物の輸入による影響など多岐にわたります。 また、未だに「3K」(きつい・汚い・危険)のイメージも強く残っています。そんな農業と切っても切り離せないものに「水」が挙げられますが、今回は日本の農業を「水」という視点から支えてきた株式会社サンホープ代表取締役の益満様にお話をお伺いいたしました。
父である創業社長から事業継承を受け代表取締役へ就任
--本日はよろしくお願いします。早速ですが、益満さんのこれまでのキャリアや起業のきっかけをお聞かせください。
1978年に大きな期待を抱え、上場企業であるパイオニア株式会社の本社へと入社しました。しかし、当時は女性のキャリアアップが難しく、昇進のチャンスなどが非常に少ない時代だったのです。そこで単身渡米し米国三菱銀行ヒューストン支店に入社しました。
もちろん銀行での勤務経験はありませんでしたが、アメリカでは第一線で活躍されている女性も多く、当時の上司から「一生懸命働けば、認めてもらえる環境だ」と教えて頂きました。そのように周囲の方々に支えられ、その上司に応えるように邁進し昇進することが出来ました。
その後は三菱商事の子会社であるMachinery Distribution Inc.にスカウトされ転職して、三菱重工が製造したフォークリフトの販売営業に従事しました。こちらも未経験からスタートしましたが、必死に全米を飛び回り、販売歴の長いセールスマネージャーの方々と肩を並べるほどの販売実績を作り上げることができました。報酬体型はアメリカらしく、貢献度に応じた報酬を得ることができ充実した生活を送っていました。
しかし、三菱商事の会社全体としては販売実績に伸び悩み、世界最大の製造会社であるキャタピラー社と合弁会社を設立しました。その際に大規模な人員整理が行われたため、一念発起して独立し、SunHope,U.S.A.Inc.を設立しました。その後に創業社長である父から事業継承を受けて2003年に株式会社サンホープ代表取締役に就任しました。
中東のシリコンバレー イスラエルから「かん水資材」を輸入し国内へ展開
--波乱万丈なご経験をされていますね。サンホープでは、現在どのような事業を展開されているかお伺いできますか?
弊社は日本で初めて農業用スプリンクラーを輸入・販売する会社として1977年に創業しました。以来、業界のリーダーとして「世界の『水』を大切に使うために、水を必要とする環境へ」というテーマのもと、少ない水をより効果的に利用できる商品とサービスを、日本全国に点在するファミリー企業(提携企業)と連携して展開しています。
弊社で主に輸入販売を実施しているのは農業用の”かん水資材”です。かん水資材とは作物や植物に水を与える際に用いるかん水に関連した農業・園芸資材で、農業用とターフ用(芝用)に大きく2つに分かれます。アメリカのトップシェアはターフ用で、主に家の庭やゴルフ場の芝に用いられるものが主流です。しかし、アメリカでは節水文化が浸透しておらず、一般的に用いられているかん水資材は、環境対策があまり進んでいません。一方、日本では雨が降るため、露地栽培で水をあげるという文化が乏しく、商品や設備の開発が進んでいなかったのです。
そこで弊社では節水効果の高い農業用スプリンクラーを輸入販売しています。実は農業用スプリンクラーの、トップシェアはイスラエルです。点滴(ドリップ)灌漑が発明された国でありイスラエルメーカーの資材が市場を席捲していることは、かん水資材業界では有名です。
また、近年業界的にはAIを用い、かん水を自動化するシステムや機器の開発と実用化が進んでいます。
--農業用スプリンクラーのトップシェアはイスラエルとは驚きました。国内の農業用スプリンクラーは御社が業界の先駆者だと思いますが、その強みをお伺いできますか?
元々、弊社の創業社長が日本の農家さんのために、世界中の様々なかん水資材を調査し、いち早く日本国内に紹介していました。そこで初めてイスラエルの樹脂製スプリンクラーを日本に紹介したことから、弊社のスプリンクラー販売が始まっており、駐日イスラエル大使館から表彰を受けたこともありました。
現在もイスラエルとの縁は深く、今日までお取引させて頂いている現地企業様も多々あります。そのため最新の技術や商品を開発している現地企業様などを大使館からご紹介頂き、事業に活きるケースもありますね。
今でこそ「イスラエル」という国の認知度は上がっていますが、イスラエルの農業技術は世界的にも先進性があり、厳しい気候や農地、水不足などの悪条件を克服するために、革新的なシステムの研究と開発が進められています。そういった先進的な技術を持つイスラエル企業との関係を築き上げてきたのは弊社ならではの強みです。
--水不足以外にも農業においては後継者不足をはじめとした多くの課題がある中で、日本の農業全体として今後どのような変化が求められるのでしょうか?
世界的に天災が多く環境資源も限られており、日本でも高品質な農作物を生産し自給率を高めることです。そのためにはこれまでの3K「キツい・汚い・危険」のイメージを払拭する必要があると考えています。また農業がビジネスとして成り立つ仕組みを構築するのも重要です。
日本の農業は、気候風土に合った水田での米作りを中心に発達してきました。現在でも、日本人の主食であるお米は、農業総生産額に占める割合が多いです。しかし、水田から排出されるメタンガスは温室効果ガスの原因として問題となっています。そこで弊社ではSDGsへの取り組みの一環として、水田を使わずメタンの発生を抑制して土壌への炭素貯留を促進し、さらに水や肥料も削減できる畑で米を栽培する方法の実証実験に取り組んでいます。3年前に自社検証では栽培に成功しましたが、未だ世界的にも確立されていない技術ですので、さらに研究を進め栽培方法を確立することで環境問題に貢献していきたいと思っています
--貴社のプロダクトは農家さん、農業法人さんがクライアントとして多いのでしょうか?また、全国への販売は代理店さんを通して行っているのでしょうか?
弊社では需要ベースで取引をするのみではなく、日本にない技術を取り入れているので、農水省や農研機構などからも問い合わせをいただくこともありますし、農業試験場とも多様な実験を行っています。また、最近では異業種の企業が農業参入しているため、そういうところから話が来ることが増えており、プロジェクトベースで動くことも多くなってきてます。
販売ルートとしては、ロイヤリティのないフランチャイズ(昔で言う”のれん分け”)で、弊社の商品を独占して販売して頂けるファミリー企業さんに全国をカバーして頂いています。ファミリー企業が無い地域では全国展開の商社や農業資材店などのお取引先様を通しての販売となります。
「水」を通じて日本農業の更なる発展に貢献していく
--今後の事業展望や日本の農業において実現したいことについてお伺いできますか?
今後は弊社が持つ「かん水知識や技術」を通して、いかにより多くの農家の方々に貢献出来るかを考え、模索し続けたいです。
また、弊社では「農業女子プロジェクト」のサポーター企業として参画しています。「農業女子プロジェクト」は、農林水産省が女性農業者の能力を社会に活かすため、農業内外の多様な企業・団体と連携し、新しいビジネスやノウハウを創造し社会に発信していくものです。弊社が提供できる「かん水知識や技術」を活用することにより、業務効率化や省力化ができるという点をより多くの農家の方に知っていただくため、ウェビナーなどの開催を通してかん水の知識を向上させ、現在日本が抱えている農業課題の解決に貢献していきたいと考えています
--ありがとうございます。最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?
IoTやAIの普及により農業とは異なるIT分野の知識や技術が必要となっています。ITの知見があり農業に興味のある方がいらっしゃればお声をかけて頂きたく思います。また、今後農業に参入を予定している企業様がいれば、弊社が持つ知見を共有させて頂ければと考えておりますので、ご相談いただけますと幸いです。
--本日はどうもありがとうございました。
株式会社サンホープ
https://www.sunhope.com/
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