食品の需給予測を起点に、日本の事情に合ったデマンドチェーンマネジメントの構築を目指す

食品の需給予測を起点に、日本の事情に合ったデマンドチェーンマネジメントの構築を目指す

株式会社シノプス 代表取締役 南谷 洋志

カテゴリ: IT・情報通信、従業員数: 50〜99

2022.02.18

南谷 洋志 (みなみたに・ひろし)

株式会社シノプス 代表取締役社長

工学部管理工学科で在庫管理シミュレーションに関する卒業論文を書いたのがきっかけで新卒で商社に入社。その後、電子機器メーカーを経て1987年に株式会社シノプス(当時の社名は株式会社リンク)を設立。

卸売業向けに開発した在庫管理システムの経験を活かした、需給予測・自動発注システム「sinops」は小売業を中心に採用され、高い評価を得ている。

 

 

豆腐・牛乳・パンなどの消費期限が短い加工食品の需給予測は、失敗すると影響が大きいため、なかなかシステム化が進みませんでした。大手も足踏みした分野に参入し、成功を収めた株式会社シノプス代表取締役の南谷様にお話を伺いました。

 

 

人との出会いが独立へ導いてくれた

 

 

 

--本日はよろしくお願いします。早速ですが、南谷さんが起業されたきっかけをお聞かせください。

 

青果商の次男として生まれ、子どもの頃から両親の手伝いをしていたので、いずれ自分でも商売をしたいという気持ちを持っていました。大学では理系と文系の間に位置するような分野に惹かれ、工学部の管理工学科に進学します。

大学の卒論のテーマは在庫管理シミュレーションでした。当時は第二次オイルショック直後で就職は楽ではない時期だったのですが、偶然、私の卒論を見た商社の社長から直々に声をかけていただくことができ、電子部品の商社に入社しました。

 

入社当初はコンピュータを担当していたのですが、先輩たちから私には営業が合っていると勧められ、営業部へ異動することになります。しかも、異動先は社内でも営業のエースが集まる京都営業所でした。

京都営業所で優秀な先輩方から営業を叩き込まれたことは、今でも大きな糧になっています。そもそも商社の営業方法が、子どもの頃から見ていた父親のそれとはまったく異なることにも目から鱗が落ちる思いでした。

 

もともと独立を志望してたので、就職から3年9ヶ月経った頃には退職を検討していました。すると、その話を聞いた先輩から誘われて電子機器メーカーの大阪営業所に転職することになったのです。

その会社も2、3年で辞めるつもりで、社長にもいつかは起業したいことを宣言して入社しましたが、結局、6年ほど在籍しましたね。その会社の入社当初の売上は4,000万円でしたが、退職したときには4億円まで成長しました。

 

直接のきっかけは、営業先である画像処理ソフトウエア会社の社長です。私からのテレアポ営業がきっかけで知り合ったのですが、私のことを気に入っていただき、「1年分の発注書を出すから独立しなさい」と背中を押してくれたのです。

 

また、勤めていた電子機器メーカーの社長にも入社時からいずれ独り立ちしたいことは伝えていましたので、快く送り出してもらえました。それだけでなく、会社の資本金として準備していた額を聞いて不足を貸すと申し出てくれたのです。以前から、自らの志を周囲に話していたので、自然とそういう道が開けたのだと考えています。

 

 

--そうして1987年に株式会社シノプス(設立時の社名は株式会社リンク)の創業に至ったのですね。立ち上げ当初の事業内容を教えていただけますか。

 

会社設立当初は、前述の画像処理ソフト会社の依頼を受けて、ハードウエアの開発やテストをする事業が中心でした。ファブレスで設計・製造・デザインを調整する業務は非常に楽しいものでしたが、一方で大きな課題もありました。それは電子部品の在庫が大量に余ることです。コンデンサなどは種類が多いので、設計を少し変更するだけで在庫が余ってしまいます。在庫の管理が大変なだけでなく、資金繰りにも影響があるのは問題でした。

 

どの会社も初めはそうだと思いますが、会社立ち上げから7−8年は常に資金繰りに追われていましたね。弊社からは手形を受け取ってもらえないので、支払いや従業員給与は現金ですが、受け取るのは手形です。お金が入るまで4ヶ月ほどかかってしまうので、当初の資本金はすぐになくなりました。

 

手形回収と在庫を持つビジネスの限界を感じていたところに、大きなダメージとなったのが独立のきっかけとなったソフトウエア会社でした。4年間は売上が倍増するペースで成長し、弊社にも多くの発注をしていただけましたが、その後急激に売上が下がり、結局は倒産してしまったのです。弊社もその煽りを受け、2名を除き社員には転職してもらわなければならないことになりました。

 

それからしばらく、他の事業を探しながら来る仕事は何でも見境なく引き受ける時期が続きました。そこへある時、物流センターの検査装置を作る仕事が舞い込んだのです。それがきっかけで、他の物流センターの倉庫を見る機会が増えたのですが、ひどい在庫管理方法を採用している企業が多いと感じていました。
 

ある物流センターの社長に在庫管理方法を聞いたところ、エクセルすら導入していないことがわかりました。それであれば、パッケージソフトを買うと良いと勧めたところ、良いものを探してきたら買うと言っていただけたのです。そこで電気街へ探しに行って、驚きました。Windows 95が発売されていたような時代にもかかわらず、当時の在庫管理ソフトには単純な足し算・引き算しかできないようなものばかりだったのです。

 

お話したとおり、私の卒業論文のテーマは「在庫管理シミュレーション」です。良い在庫管理ソフトがないから自分で作らせてほしいと物流センターの社長に直談判し、「在庫21」というサービスを開発しました。

 

ところが、このサービスは業界で話題にはなったもの、卸売業界の特徴のため、なかなか広がりませんでした。そこで17、18年前に小売向けに展開を開始したところ、口コミで広まったのです。12、13年前には製品名を「sinops」に変更し、2019年に社名もシノプスに変えました。

 

 

大手がやりたがらなかった日配食品の需給予測・自動発注システムを開発


 

--日配食品の需給予測・自動発注システム「sinops-CLOUD」について、改めてご説明をお願いいたします。

 

需給予測・自動発注システムを開発したきっかけは日用雑貨を扱う問屋から要望をいただいたことです。その後、小売業に展開した際に日配食品のカテゴリに参入しました。比較的賞味期限の長いグロサリー(缶詰などの加工食品)の在庫管理システムは大手SIerによってある程度確立されていたため、弊社はもともとその分野に参入するつもりはありませんでした。

 

一方、日配食品は需給を読み違えた場合のリスクが大きいため、大手はやりたがりません。売れ残り、または品切れのどちらでも、失敗した場合の影響が大きいのです。弊社が開発に着手した際も、初めは失敗も多く、お客さまに怒られることもありました。しかし、あるときから需給予測が的中するようになり、小売業界で評判のシステムになったのです。

 

詳細は企業秘密ですのでお話しできませんが、パラメータ設定により、ある商品の特売による需給の変化だけでなく、他の商品のカニバリゼーションまでを予測できるのが強みです。トライアンドエラーを重ねてきたことで、かなり正確に予測ができるようになりました。AIと人間の感覚の合せ技で、精度を高めています。

 

 

--サービスをうまく活用されている企業の事例についてお伺いできますでしょうか。

 

現在、弊社のサービスは中堅から大手企業まで、小売業のお客さまを中心にご利用いただいています。その中で、うまく活用されているのはサービス導入を成功させるという強い意志がある企業です。他力本願ではうまくいきません。

 

現場では新しいITサービス導入に後ろ向きな人もいます。複数店舗を展開している場合、店長の姿勢によって成功しやすさが変わります。サービス導入を成功させるには、どちらかと言えば積極的でない店舗をどう引き上げていくかが重要です。

 

そのため、弊社では顧客企業にとってのKPIを設定しており、そのKPI達成に対してコミットしていく方法を取っています。欠品率・在庫金額・食品ロス・作業改善がKPIの例です。導入後のKPI変化をシミュレーションし、実態と照らし合わせることで、達成感やチェーン内で他店舗との競争心が湧くような仕組みを作っています。

 

 

日本の事情に合ったデマンドチェーン・マネジメントを

 

 

 

--今後の中長期的な事業展望についてお伺いできますか。

 

現在のお客さまは小売業が多いのですが、いずれは他の業界への展開を目指しています。現在、浸透しているサプライチェーン・マネジメント(SCM)は、国土が東西に広いアメリカ発祥の考え方です。国土が狭くしかも南北に広がっている日本では、米国と比べて物流コストがまったく異なりますよね。

 

また、江戸時代から藩によって分かれていた日本では食生活や味覚が異なります。そのため、大量生産・大量消費よりも、地産地消の文化が浸透している日本にはSCMは合っていないと常々考えていました。それよりもむしろ、消費に最も近いデータであるPOSデータを活用した、デマンドチェーン・マネジメントを構築したいのです。

 

そのためには大量のPOSデータが必要ですので、まず小売業で圧倒的シェアを獲得することを目指しています。オセロの四隅戦略のように、小売業で40%のシェアを取れれば、卸売、メーカー、さらには原材料・包装材メーカーなど新たな業界へと展開していくのは難しくないと考えています。

 

 

--最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?

 

業界を問わず、需給予測ができるシステムをお探しの企業様はぜひ弊社へご相談ください。

 

 

--本日はどうもありがとうございました。

 

 

株式会社シノプス

https://www.sinops.jp/

 

 

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