黒河内 貴(くろごうち・たかし)
株式会社仙醸 代表取締役
1976年長野県伊那市に生まれ、大学卒業後はロンドンの大学院に2年間留学する。その後、2001年に株式会社仙醸に入社し、2009年6代目の代表取締役に就任する。現代人の味覚やライフスタイルに酒も合わせていく必要があると考え、日本酒、あまざけ、米麹、焼酎、酒粕など、米発酵食品を幅広く取り扱う。様々な商品を若い世代にも普及させていくことで、麹文化、米発酵文化を次世代に伝えている。
消費者趣向の変化により近年チューハイなどのリキュールやウイスキーの消費量が拡大する一方、日本酒や焼酎の消費量は減少しています。日本酒の国内出荷量はピーク時には年間170万キロリットルを超えていましたが現在では42万キロリットルになり、これに伴い原材料である米の国内出荷量も減少が続いています。今回はそのような状況を踏まえ、「米発酵文化を未来へ」の経営理念を掲げ、米の消費量拡大、麹文化・米発酵文化の継承に取り組む老舗酒造、株式会社仙醸代表取締役の黒河内様にお話を伺いました。
150年以上続く歴史ある老舗酒造の6代目で米発酵文化を次世代に継承する
--本日はよろしくお願いします。早速ですが、黒河内様の今までのご経歴をお聞かせください。
1976年、長野県伊那市で生まれ、大学卒業後ロンドンの大学院に2年間留学し、国際関係史について学びました。その後2001年に家業に入り、 2009年に株式会社仙醸の6代目に就任しました。
2016年に創業150年を迎えた弊社は、江戸時代の終わりから酒造業を行う歴史ある老舗酒造です。1866年に城下町として栄えていた信州高遠で創業し、国の産業化とともに地域経済の拡大と共に順調に酒造業も発展していきました。
当時製造していたお酒は1級と2級の2種類のみで、1級酒の黒松仙醸は贈答用として重宝され、南信地域でよく知られるブランドになりました。
現在は日本酒の他に甘酒や米麹、焼酎、酒粕など、米発酵食品を広く取り扱っています。日本人の米消費量は年々減少し、農業や農村社会が失われつつありますが、弊社は現代人の味覚やライフスタイルに合わせた新しい米発酵食品を生み出すことで米の消費量拡大を目指しています。
日本酒だけにとらわれず現代人の味覚に合わせて様々な商品を展開
--貴社が軸とする日本酒の製造、販売事業の詳細について改めてお伺いできますでしょうか。
弊社は長野県南部の南アルプスと中央アルプスに挟まれた伊那谷にあり、伊那谷に流れる川の源流は南アルプスです。南アルプスの雪どけ水は1年を通じて豊富で、敷地内の地下60メートルから川の伏流水をくみ上げ、酒造用水に利用しています。
良好な風土の伊那谷は酒造りだけでなく米造りにも恵まれており、地元で栽培される「ひとごこち」や「美山錦」などのブランド米を商品づくりに使用しています。
主なクライアントは長野県の地元のホテルや飲食業で、地元スーパーにも出荷しています。また、長野県のお土産として購入していただくことも多いです。最近では長野県外の問屋を通じて、県外のスーパーや東京の日本酒専門の居酒屋に置いていただくようになりました。
加えて輸出やネットショップでの販売も行っています。現在15カ国に輸出しており、直接現地の会社と取引しているのは2社、他は日本にある商社からの間接輸出です。
--様々なところで販売されているのですね。ネットショップでの販売について詳しくお伺いできますか。
もともとはYahooショッピングや楽天ショッピングにて出店していましたが、2019年12月から自社オンラインショップを立ち上げました。そんな中、コロナウイルスが蔓延し、弊社も何かできないかと考え、2020年4月ごろに消毒用アルコールを販売しました。すると、顧客が10倍になり、その時に多くのお客様に認知して頂いたと思います。
消毒用アルコールはアルコールの原料を加工して製造していました。コロナ禍で外出できないこともあってかオンラインショップの需要はかなり伸びましたね。
--貴社の酒造りのこだわりや特徴について詳しくお伺いできますか。
特徴は2つあり、1つめは量産型と手作り(クラフト)の2つがあることです。日本酒の業界は戦後成長していき、1973年にピークを迎え、1990年くらいまでは高止まりしていましたがその後減少に転じました。当時地方メーカーの日本酒は手作りが主体でしたが、弊社は拡大期に一度に大量に作れるよう1985年に他より早く機械化しました。
1990年以降、製造の市場が縮小し始めてからは大量に作るよりは様々な商品を細かく製造するために手作りの生産ラインを作り直し、機械作りと手作りの2つで行うようになりました。
手作りでは作る職人の力量や感覚に左右されるため、個体差にばらつきが出てしまい、量も多くできません。50点の合格点に満たないものもできますが、120点の芸術品のようなものができることもあります。反対に、機械作りは70点のものを大量に作ることができるため大量生産に向いています。そのため弊社では製品によって使い分けて商品を作っています。
2つめの特徴は、多品目に展開していることです。日本酒の原料は米と米麹です。その原料を使ったものとして甘酒、どぶろくも販売しています。どぶろくは累計で20万本以上売れており、「美味しい」「一口で幸せになれる」と好評です。
日本酒を蒸留すると米焼酎になりますし、蒸留という技術で洋酒であるウォッカやジンも作れます。最近ウイスキーの免許を取得しましたので、これからさらに様々な商品を開発していきたいと思っています。
--日本酒から多くの商品に展開が可能なのですね。現在の経営理念は黒河内様が決定されたと伺いました。詳しくご説明いただけますか。
弊社の経営理念は「米発酵文化を未来へ」です。私が入社した2001年時点では、100%日本酒を製造している会社でした。1990年以降日本酒市場の規模が減少傾向だったため、非常に苦しい時期が続きました。
転機は、業績が悪化する中で日本酒以外の商品を開拓しようと販売した甘酒が売れたことでした。その時に売り上げの3分の1ほどが甘酒になったこともあり、甘酒が売れるから製造側にも大量に作るように言っていました。最初は冬限定で製造していた甘酒でしたが、設備を工夫して夏にも製造を行い、年中販売される商品になりました。
その際、製造に携わるスタッフから、「甘酒ばかりに力を入れて、本業である日本酒をおろそかにしているのではないか」と言われ、これは方向性を固めないとと感じ、経営理念やロゴ、HPなどを制作してブランド化していきました。そこから甘酒や日本酒という狭い意味ではなく、お米の発酵文化という日本独自のものに焦点が移っていったのです。
米の消費量は年々減少し、現在国内では米が余り農家が儲からないなど、米発酵産業に暗さが見られます。明るい未来に繋げるために日本酒を売る会社として、米や米発酵文化を次世代に伝え新しい分野に挑戦していこうと今の経営理念ができました。
米の消費量を拡大し、麹文化・米発酵文化を次世代に伝えたい
--今後の中長期的な事業展望についてお聞かせください。
経営理念に基づき、麹文化、米発酵文化を次世代に伝えていきたいです。取り組むことは大きく分けて3つ考えています。
まず、コロナ以前の社会に戻るとは思っていないため、新しい商品を次々に開発していくことです。そして海外に向けての輸出は伸び代があるため、輸出量や国をさらに増やし、海外に日本酒を広めること、発酵文化を次世代に伝える取り組みを広めていくことです。
--最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?
弊社では日本酒という枠に囚われずに色々な分野に挑戦し、日本だけにこだわらず、海外にも展開しています。
業種という壁も越え企業様と交流する中で、新しい発想を得ることができると考えているため、商品開発など何かお力添えできる部分がありましたらぜひお声がけください。
--本日はどうもありがとうございました。
株式会社仙醸
Professional Onlineでは無料で経営者インタビューに掲載いただける方を募集しています。
お問い合わせフォームよりご連絡ください。
プロフィール
黒河内 貴