澤柳 智明(さわやなぎ・ともあき)
株式会社リアリニット 代表取締役
東京都板橋区出身。早稲田大学大学院を卒業後に一部上場企業に就職し、システム開発に従事。その後転職し、外資系ソフトウェアベンダーにて海外で開発したシステムにおける技術面でのサービスに従事。リーマンショックの影響で短期間での転職を何度か繰り返したのち、2015年に株式会社リアリニット設立。VRや人工知能の技術を使ったシステムの開発をしている。
VR(バーチャルリアリティ)や人工知能などの新しい技術の開発には大きなコストがかかるため、大企業でなければ開発が難しいのが現状です。そんな中、パッケージソフトや個別のシステム開発により中小企業へ最新技術の普及を図っている、株式会社リアリニット代表取締役の澤柳様にお話を伺いました。
システム開発と輸入ソフトウェアに対する技術サービスの経験を活かし、起業
--本日はよろしくお願いします。早速ですが、澤柳さんが起業されたきっかけをお聞かせください。
早稲田大学大学院を卒業後に一部上場企業に入社し、石油プラントや発電所の制御システムの開発を行いました。3年半ほど経過した後、外資系の会社に転職します。ここではシステム開発でなく、海外で作ったパッケージソフトを国内の大手企業に販売していました。
パッケージソフトは利用するお客様に合わせてシステムを改修する必要があるため、私は外国人の開発スタッフを連れてヒアリングを行っていました。英語通訳も行うため、とてもチャレンジングな仕事でしたね。8年ほど勤めましたが、勤めていた会社が買収されたことなどをきっかけに、退職しました。
その後、別の外資系の会社に転職しましたが、リーマンショックの直後だったためにお客様からの仕事受注がない状態が3ヶ月ほど続きます。そのような状況だったためすぐに解雇されてしまい、再び就職活動をすることになりました。当時は求人がなく、やっと就職できた会社はいわゆるブラック企業で、ほとんどの社員が辞めていくような会社でした。その後、何度か転職を繰り返しました。
--会社員から経営者になるきっかけは何だったのでしょうか?
最後に勤めた会社で、某大手企業の仕事に関わったことがきっかけです。退職することは決心していたのですが、その企業との仕事を継続したい気持ちが大きかったため、会社を設立することで取引を継続しようと考えたのです。そこで、その企業に「会社を辞めざるを得ない状況ですが、御社との仕事は継続させていただきたい」と相談しました。その企業も協力的だったため、2015年に株式会社リアリニットを設立しました。
某大手企業との取引がフランスで開発されたVRに関わるシステムの輸入販売だったため、創業当時はソフトウェアの輸入販売を行いました。専門的な知識や英語力が必要な特殊な仕事のため、ある程度の売上になるとは考えていましたが、あわせてパッケージソフトや個別システムなどの開発ビジネスにも着手しました。
私が他の経営者と異なる点は、もともと経営者になるつもりはなく、追い詰められて起業したという点ですね。おそらく、リーマンショックがなければ会社員を続けていましたし、起業していなかったと思います。転職を繰り返すとだんだん採用されることが難しくなることもあり、いっそのこと経営者になろうと考えましたね。
VRや人工知能の技術を使ったソフトを開発
--現在展開されている事業について、あらためてご説明をお願いします。
弊社が行っている事業は3つです。VR(バーチャルリアリティ)や人工知能など、世の中のトレンドになっているような技術に関わる中でパッケージソフトや個別開発に関わってきました。
・ソフトウエアの輸入販売
・パッケージソフトの開発販売
・個別のソフトの受託開発
創業当初は輸入ビジネスからスタートしましたが、今までVRに関わってきた経歴を活かしてVRに関するソフトを開発するようになりました。特殊なことをやっているということで、多くの企業に興味を持っていただき、さまざまな受託開発を任せていただきました。
人工知能の取り扱いをはじめたのは、クライアントから「人工知能の技術を利用したシステムの開発ができないか」と相談を受けたことがきっかけですね。当時、人工知能の技術が普及し始めたという時代背景もありました。
2018年頃に人工知能について学び始めたのですが、統計学を使うということもあり最初はまったく理解できませんでしたね。本を3冊ほど買って3回読み込んでやっと理解できるようになり、システムを作り始めました。
--具体的にはどのようなシステム開発をしていますか?
3次元データシステム「デバイスレイアウタ」や、人工知能の技術を用いた「ezDeep」というパッケージソフトなどがあります。ezDeepは2021年4月に発表したばかりです。
ezDeepは、ディープラーニング(画像の特定や識別といったものをコンピュータに学習させる手法)を行うためのデータを専門知識なしで作成できる製品です。人工知能を作る部分をパッケージ化してあるため、画像などのデータをシステムに読み込ませるだけで、自動で人工知能システムを作ることができます。
あらゆる業界で利用できる可能性を秘めていますが、中でも製造業が多いです。たとえば、商品を工場で製造して出荷する場合に検品作業が生じますよね。本来は人の目で検品作業を行いますが、人工知能が製品の写真を解析して検品を行ってくれます。ezDeepを利用することで、このような人工知能の技術を使ったシステムを開発することが可能です。
最近では医療分野にも進出しています。具体的な用途としては、人工知能を使った医療画像解析による病気の診断です。東京都医工連携HUB機構というプロジェクトに登録し、医大の教授にさまざまなご提案を行っています。
--システム開発はどのような経緯で受注されるのですか?
医工連携HUB機構やジェグテックという中小企業基盤整備機構が運営するビジネスマッチングサイトでの受注です。専任の営業スタッフがいないため、今後ビジネスが拡大するに従って人材の確保が課題になると考えています。
また、システム開発を行う人材の獲得も課題です。弊社では、システム開発経験者ではなく学生インターン採用から新卒採用を強化していこうと考えています。なぜなら、学生や新卒者はこちらが教えたことをよく吸収してくれるからです。
最近は人工知能を大学で学んでいたり、興味を持っていたりする人が多いと感じています。おかげさまで弊社の求人にも多くの学生が応募してくれました。技術的に高度なことを行っているので初期教育コストがかかりますが、自社で人材を育てていきたいです。
大企業だけでなく中小企業にも最新技術を広めていく
--今後の中長期的な事業展望についてお伺いできますか。
世の中に知られていない最新技術を、大企業だけでなく中小企業に広げていきたいです。なぜなら、世の中に広がると値段も下がり、多くの企業が導入しやすくなるためです。
最新技術の利用はコストがかかります。大企業の場合は、人材を採用して自社でシステムを開発したり、多額の資金を費やして独自のシステム開発を外注したりできます。しかし、資金力のない中小企業にとってはそれは厳しいことです。
弊社のパッケージ商品であるezDeepは比較的安く購入でき、中小企業でも自社で人工知能に関する開発や研究ができます。弊社の商品がきっかけで、人工知能やVRといった最新技術が、大手企業だけでなく中小企業にも広がることを願っています。
また、人工知能をどのように使うかという部分で、ハードウエアが関わってくる機会が多いです。ハードウエアを取り扱っている企業との協業も、いずれは考えていきたいですね。
--最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?
システム開発というと、「価格が高い」「難しくてわかりにくい」というイメージを持っている方が多いです。しかし、実際にはシステム開発のためのツールが増えてきており、うまく技術を使えばシステムを安く作れるようになっています。ただ、最先端技術を使うには労力が必要です。
弊社は、今ある技術をうまく手軽に安く使って、他社にはないものを提案できる立場にあります。VRや人工知能に興味がある企業様は、大企業・中小企業に関わらずご相談ください。
--本日はありがとうございました。
株式会社リアリニット
https://www.realinite.co.jp/
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