西村 悟(にしむら・さとる)
酪農王国株式会社 代表取締役社長
静岡県三島市出身。日本大学農獣医学部食品経済学科卒業。食品メーカーや食品輸入商社を経て2001年に酪農王国株式会社に入社し、全体のマネジメント活動に従事する営業管理部長や取締役を歴任。2021年6月、同社で初めてとなる社内出身の社長に就任した。
「丹那牛乳」で知られる静岡県田方郡函南町丹那にある観光牧場「酪農王国オラッチェ」。1997年の開業以来、首都圏にも近く、手軽に酪農や農業体験ができる場所として愛されてきました。今後は企業の福利厚生や従業員教育、SDGsへの取り組みにも施設をご利用いただきたいと言う酪農王国株式会社代表取締役の西村様にお話を伺いました。
社内出身者として初めて社長に就任
--本日はよろしくお願いします。早速ですが、西村さんが代表取締役に就任されたきっかけをお聞かせください。
大学卒業後、地元の食品メーカーを経て、都内の輸入食品商社に入社しました。2001年に弊社、酪農王国株式会社に転職し、全体のマネジメントを行う営業管理部長、取締役を経て2021年6月に社長に就任しました。
弊社はいわゆる第三セクターで、親会社は函南東部農業協同組合です。消費者と生産者をつなぐため、また都市と農村の交流を進めるため、函南東部農業協同組合や行政、神奈川県の生活協同組合(生協)などの出資を受けて1997年に設立されました。そのような背景があり、私の前までは農協出身の社長が続いていました。しかし、自立した経営をするため、このたび創業以来初めて社内から社長を選ぶことになり、私が社長に就任することになったのです。
地域貢献とビジネスを両立させる難しさ
--貴社の事業について、あらためてご説明をお願いいたします。
静岡県田方郡函南町丹那にて「酪農王国オラッチェ」という観光牧場を経営しています。丹那は140年前から酪農が営まれてきた小さな盆地です。地域の名前を冠した「丹那牛乳」というブランド牛乳は静岡県内ではよく知られています。
農業体験や酪農体験などのプランを用意し、修学旅行などの団体のお客さまも受け入れてきました。食の安全・安心には設立以来、特に力を入れており、食育などにも弊社の設備をご利用いただけます。敷地内には食品加工工場もあり、オーガニック地ビールや無添加のお菓子などを製造・販売しています。
以前はこのような食品類の需要は高くなく、経営が厳しかったときもありました。しかし、10年ほど前から丹那をブランドとして、地域と共栄を目指すという方針を固めてからはノウハウもたまり、観光業もコロナ禍までは順調に推移していました。
コロナ禍で休業していた時期もありましたし、現在も団体のお客さまのご来場は落ち込んでいますが、今後も地域の魅力を広く世界に向けて発信してまいります。
--貴社の独自性や強みについてお伺いできますでしょうか。
弊社の強みは「丹那牛乳」というブランドの商標権があり、お菓子などさまざまな商品に横展開が可能であることです。
また、野菜の収穫などの農業体験、食育をビジネスとして成立させられる仕組みも強みです。始めは利益を出すのが難しく、ボランティアに近かったのですが、地域と連携しながら長年続けてきたことでビジネスとして成立させられるようになりました。
--企業を経営するうえで課題として感じていることがあれば教えてください。
先ほどのお話と矛盾するように聞こえるかもしれませんが、弊社の事業が地域貢献を主眼としている以上、今でも手弁当の部分は多いです。地元に利益を還元しつつも企業として経営するという軸をぶれさせないことが最大の課題だと感じています。
弊社は熱海や箱根から近く、団体客やツアー客の送客の面で相乗効果がありましたが、コロナ禍で期待できなくなってしまいました。しかし、「丹那牛乳」の名前を使ったお菓子類がコンビニエンスストアなどで売上を伸ばしており、経営の助けとなってくれています。
酪農や農業体験ができる施設を企業に活用していただきたい
--今後の中長期的な事業展望についてお伺いできますか。
お話した通り、観光業は落ち込んでおり、いつ回復するかわからない状況ですが、その間に今後の事業展開の見直しを進めています。
現在進めている取り組みに、廃業した牛舎の活用があります。高齢化などで離農が増え、空いている牛舎が増えていますが、そこにサラリーマン酪農家として社員を投じ、乳牛や肉牛を育てる事業です。いずれは乳牛を増やして牛乳の生産量も増やしていきたいですね。
現在は農業高校や大学の農業科を卒業した社員を雇用し、練習として展開中です。障害者枠で雇用した社員にも手伝ってもらっています。
落ち込んだ観光需要の代わりに、弊社から積極的に企業様へ提案しているのは福利厚生や従業員教育の一環として、酪農などに触れていただく取り組みです。
夜は熱海や箱根などに宿泊して温泉でくつろぎ、日中は弊社の施設での農業や酪農の体験を通じて心をリフレッシュさせるプランを提案しています。静岡県の後押しもあり、反響は多いですね。すでにいくつかトライアルの実績があり、手応えを感じています。
また、企業のSDGsの取り組みにも弊社の施設が活用できるのではないでしょうか。たとえば、牛の堆肥を活用した循環型農業には何年も前から取り組んでいます。都内の調理師専門学校と提携し、学校から出た食物残渣をもとにした堆肥を使って大根を育て、食材として学校に提供する取り組みなども実績があります。
将来のためには、AIなど農業に関して先進的な取り組みをしている企業があればお話してみたいと考えています。弊社の農地をトライアルとして提供することも可能ですので、ぜひご検討ください。
--最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?
社長として、いかに社員を信じるか、また社長業をどう楽しむかを自分に言い聞かせています。口も手も出したくなるのを我慢して、社員の成長のためにやっていきたいと考えています。この記事を読んでらっしゃる経営者の方々には、ご教示のほどよろしくお願いいたします。
また、繰り返しになりますがSDGsなどの取り組みのために弊社の施設を利用されたい企業様や、農業に関する先進的な取り組みをされている企業様はぜひご連絡ください。
弊社のミッションは「6次産業化」を目指して地域資源を発掘し、磨き上げていくことです。お役に立てることがあれば何でも協力したいと考えていますので、ご興味ある企業様はお問い合わせいただけば幸いです。
--本日はどうもありがとうございました。
酪農王国株式会社
Professional Onlineでは無料で経営者インタビューに掲載いただける方を募集しています。
お問い合わせフォームよりご連絡ください。
プロフィール
西村 悟
会社情報

決裁者アポ獲得支援サービス「アポレル」に登録すると、日替わりでレコメンドされる著名な経営者と出会うことができます