「自分が継いだ意味を見出したい」。イノベーションを起こし続ける七代目の挑戦

「自分が継いだ意味を見出したい」。イノベーションを起こし続ける七代目の挑戦

高茂合名会社 常務取締役 高橋泰

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高橋 泰 (たかはし・やすし)

高茂合名会社 / ヤマモ味噌醤油醸造元 常務取締役

27歳で家業を継ぎ、1867年から続く老舗味噌醤油の蔵元ヤマモ味噌醤油醸造元の七代目として就任。伝統に重きを置きつつ、菌のブランディグなど新たな事業も積極的に推し進めている。

 

 

過去の反復に重点を置く蔵元の世界において、味噌醤油由来の菌を使ったワイン醸造など既存の枠に捉われない新しい事業を展開している高茂合名会社 / ヤマモ味噌醤油醸造元。「自分が継いだ意味を見出したい」との思いを胸に事業に励む、ヤマモ味噌醤油醸造元常務取締役の高橋様にお話を伺いました。

 

 

インバウンドとアウトバウンドを両立し、お客様に価値を伝える

 

 

 

--本日はよろしくお願いします。早速ですが、貴社の創業のヒストリーをお聞かせください。


創業は1867年の大政奉還の年になりまして、私で七代目になります。私自身は27歳の時に家業を継ぎまして、今年で15年目を迎えます。家業を継いで5年目から海外展開を開始し、その3年後にインバウンドの受け入れを行っています。

 

古い会社になりますので、建物を含めて課題が山積しています。そのため、改築を通じて課題解決をしつつも、新たな魅力を付随させてコンテンツを積層させ、最終目的地としてお客様にお越しいただけるような形にしていきたいと考えております。

 

インバウンドとアウトバウンドの双方を行うことが最も価値を伝えられるのではないかと考え、輸出と共に自分の蔵に招き入れる機能を持つという判断をしています。 

 

 

「自分が継いだ意味を見出したい」業界のスタイルに捉われない新しい事業の形


 

--現在取り組まれている事業についてご説明頂けますでしょうか。

 

新事業として試験醸造を繰り返し行っております。

背景として、味噌醤油業界はワインとは異なり、昨年と同じ味を求められます。革新性があまり求められない側面がありますので、イノベーションから遠い業界です。そういった業界ではありますが、これまで業界内で求められていない新規性のあることにもイノベーションを起こすために取り組んでいます。

 

そこには、私自身が元々家業を継ぐ気がなく、建築の道へ進んだところから戻って来ているので、自分が継いだ意味を見出したいという想いが強くあります。

 

また、インバウンドの取り組みとして、有料ツアーを行っています。約1時間半のツアーで3,300円と業界の中では料金設定が高めですが、体験を価値に変えてビジネスにするには単価を上げて、それに耐えうる質をつくる必要があると考えています。

 

日本のものづくりは世界から評価されているため、ものづくりの現場自体がエンターテイメント性を持てば、体験型の消費としても打ち出せると考えています。

 

また、新たな菌を発見するような取り組みも積極的に行っております。有用な菌であっても殺傷能力を持っていることもあり、簡単ではありませんが、業務を繰り返しているうちに特許に該当するような特殊な菌を発見することができました。

この菌を用いて横断的な製品をつくっていくところに、フォーカスを当てているのが新規事業の優位性だと思っています。

 

この菌の特徴でいいますと、通常の2倍程度の旨味を醸成する効能があります。元々は味噌醤油由来の菌であるため、好塩性で塩分が無い状態だと働けなくなりますが、この菌は変わらず発酵できる能力があり、その菌を使って星付きのレストランに出しているワイナリーを訪ね、ワインを醸造していただきました。

 

味噌醤油由来の菌でワインができるのは、学術的には世界初になるのではと言われております。横断的に作用させられる菌が自社の研究から見つかったのは最大の強みで、究極的には菌のブランディングをしていきたいと考えております。

 

弊社の菌の可能性の追求のため、他社とタッグを組んでどぶろくをつくることが決定しています。菌をブランディングして応用していただけるところと協業していく動きをこれからも推進していきます。

 

 

--画期的な取り組みですね。今後はどのような展望をお持ちなのでしょうか。

 

これからも菌の新しい応用領域を模索しながら進化していける取り組みをしていきたいなと考えております。

新型コロナウイルスが流行する前、4度世界一を受賞しているレストラン「noma」の関係者がコペンハーゲンのリサーチセンターで、弊社が行った講演やワークショップに来ていました。

 

実は新型コロナウイルスの影響でnomaの日本展開している店舗で働くはずだったドイツ人シェフが行き場を失い、弊社に来ることになったんです。

 

外国人シェフの観点も非常に重要で、日本人と違う味覚のキャッチをしてくれるので、レストランとしての領域を非常に強めていくことができました。ビザの問題もありドイツ人のシェフは帰国しましたが、弊社としては非常に良い経験となりました。

そこからガストロノミーの領域を強めるような動きをつくっています。 弊社の菌は醤油(麦)の発酵能力に加え、ホップの耐性があるのでビールも醸造できるのです。

 

国内のメーカーとタッグを組むことも検討しておりますが、ラガービールはヨーロッパ発祥ですので、まずは現地で弊社の考えに共鳴するパートナーを見つけたいと思っています。

 

これからも菌を使った東洋と西洋の協業のような形で、発酵の新たな可能性を世界に提案していきたいと考えております。

 

 

業界の衰退を防ぐ。使命感を胸に事業を展開

 

 

 

--業界全体としての課題は何かありますか。

 

新規参入の障壁の高さが課題だなと感じています。というのも秋田県には30を越える蔵が残っていますが、新規参入した会社が分が悪いという状況があります。

 

過去に確立した製法を変えずに続けていることが、現在でも最も尊いという価値観なのです。

このままでは蔵元の数が減って衰退してしまうので、新規性があるものにも分があるようなパワーバランスに変えないといけないと思っています。

 

弊社では過去の製法を承継することも行いますが、自分自身が発見した新規技術に関しても業界内にきちんと価値を伝えていきたいと考えています。

 

海外ではオレンジを入れた醤油などが出回るなど、日本人が既存の価値観に捉われて王道にはなり得ないと思っていたものを、自由な発想で生み出しています。

新規参入がないという点においてもこの業界は非常に脆弱性を持っていると思いますので、新たな味噌醤油の使い方を日本から生み出さないといけないという使命感を持って、事業展開していきたいと考えています。

 

 

--ありがとうございます。最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?

 

自分自身は人間の創造性を信じていて、困難な状況でも創造性によって前進させてきたのが人類だと考えています。

 

創造性を基軸にした産業を実践したいと考えており「伝統産業を創造性と美意識で再構築する」ことを理念に掲げています。この思想を各分野に広げていきたいと思っています。

 

 

--本日はどうもありがとうございました。

 

 

高茂合名会社

https://yamamo1867.com

 


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