「剣道の経済圏」を構築する

「剣道の経済圏」を構築する

株式会社パークフォーアス 代表取締役 永松 謙使

カテゴリ: スポーツ、従業員数:

2022.01.20

永松 謙使(ながまつ けんし)

株式会社パークフォーアス 代表取締役

慶應義塾大学法学部政治学科卒業。5歳の頃から剣道をはじめ、中学から高校、そして大学では剣道部に所属。大学卒業後は野村證券株式会社に就職。千葉と大阪の支店で営業を担当する一方で、会社の剣道部にも所属。2016年4月、野村證券を退職し、株式会社パークフォーアスを起業。剣道用具専門のECモール運営や訪日外国人向けの剣道体験ツアーといった事業を中心に行っている。

 

 

現在では国内に200万人、海外に100万人の競技人口がいる剣道。その歴史は、江戸時代の日本まで遡ります。日本に長い歴史があり、世界中でこれだけ多くの人に認識されている競技ですが、使用される道具の多くは海外メーカーが占めているという一面もあるのが特徴です。今回は、剣道専門の通信販売や外国人向けの剣道体験ツアーなどを中心に事業を展開している株式会社パークフォーアス代表取締役の永松様にお話を伺いました。

 

 

「市場があるのに儲かっていない」という市場の特殊性に目をつけて起業

 

 


--本日はよろしくお願いします。早速ですが、永松さんのこれまでの経歴や起業されたきっかけをお聞かせ下さい。
 

私は中学から高校、大学まで剣道部に所属していました。大学を卒業した後は野村證券に入社し、千葉支店や天王寺支店で国内の個人・法人向けリテールを担当していました。入社してからも会社の剣道部に所属し、細々ではありますが、剣道は継続していました。

 

そんなある時、営業の一環でふと剣道具店へ訪れた際に、多くの剣道具店には後継者がいないこと、さらに市場の9割を海外製剣道具が占めており、価格下落が止まらないため、どの剣道具店も経営が厳しいという話を聞きました。

 

そもそも剣道は、武道の中でも競技人口がかなり多い競技で、日本国内における剣道の競技人口というのは、柔道の10倍を超えるほどです。さらに必要な装備も多いため、剣道具市場というのは必ずしも小さくはないといえます。一方で、メジャースポーツほどの市場は無い上に、製作の難易度が高いことから、大手スポーツ用品メーカーが参入しにくい市場でもあります。これらの点から見ても、マーケットとして決して悪くはないという印象でした。
 

このような点に着目して、何かサービスを始められないかと思い、起業を決意致しました。

現在、株式会社パークフォーアスでは、モール型の剣道用具専門の通信販売サイト「KENDO PARK」や訪日外国人向けの剣道体験ツアー「SAMURAI TRIP」を中心に事業を展開しています。そのほか、剣道系YouTubeチャンネルやオンラインサロン型道場の運営にも携わらせて頂きました。


 

--剣道の世界的な競技人口についてお聞かせ下さい。

 

客観的な統計数値は存在しないですが、国内に約200万人(有段者数+子供)、海外に約100万人の競技人口がいるといわれています。海外では特に韓国とアメリカが多いといわれていますが、競技者分布でいえば、特定の国に限らずほぼ全世界に剣道チームが存在します。例えばアフリカのマラウイやミャンマーにも剣道チームが存在し、「各国代表チーム」も存在しています。

 

こういった点から、剣道はすでに「普及」というフェーズは過ぎていると考えています。今はバリューアップ、ひいては「剣道でマネタイズして自走していく」ことが求められている段階であると思います。


 

--国産剣道具と海外製剣道具の違いについてお聞かせください。

 

海外製の剣道具は、主に中国や韓国、フィリピン等で作られています。

20年ほど前までは品質に大きく差があったのですが、近年では海外製剣道具の品質が大きく向上してきております。

 

国内では剣道具職人が減少の一途を辿っている一方、海外では生産量が増え、製作技術が継続して向上しています。結果として、現在では「国産だから、海外製だから」という点での品質の違いはほとんどなく、「職人やメーカーによる」という状況になってきていると感じています。


 

世界に広く認識されている剣道

 


--現在、剣道用具専門の通信販売や訪日外国人向けの剣道体験ツアーといった事業を中心に事業展開されていると思いますが、改めてご説明をお願いします。

 

通信販売はモール型EC「KENDO PARK」の運営を行なっております。これまで剣道具は、比較検討や正しい情報収集が難しい状況が続いてきました。もともと情報発信が苦手な業界であり、インターネット上にも剣道具に関する整理された情報があまりありませんでした。またユーザー側も、身につけるものであるが故に、オンラインよりも地域にある「町の剣道具店」で用具購入を行うケースがほとんどでしたので、限られた商品ラインナップしか目にする機会がありませんでした。
 

結果として、ユーザー側も「何が良くて何が悪いか」「どういった違いがあるか」「どこに注目して商品選定をこなえば良いか」といったことがわからず、商品の付加価値も上がらないため、どこも「似たような商品を安く売る」という状況が定着していました。

 

そこで、「正しい情報発信」「ブランディング」「地域非対称性の解消」を行うべく、モール型のECサイトを開設致しました。ECサイトと並行して、自社でキュレーションメディアも立ち上げ、多様かつ正しい情報発信にも力を入れています。

 

訪日外国人向け剣道体験ツアー「SAMURAI TRIP」では、剣道をやったことのない訪日外国人の方々に、剣道を体験していただくツアーを実施しております。ツアーの中には、剣道体験、剣道具製作工房見学、剣道居酒屋での和食体験といった複数のアクティビティを設置し、単に剣道を体験してもらうだけでなく、剣道具を製作する職人の工房を見学したり、剣道をテーマにした居酒屋で和食を体験する等、文化面を伝えることにも注力しています。

コロナ前までは訪日外国人の数が爆発的に増加していたこともあり、年間約2,000人ほど受け入れを行なっていた状況でした。
 

剣道体験ツアーは2つのユーザー属性があり、個人やファミリーといったいわゆる「FIT」、そして企業や国際会議、学校単位といった団体旅行者、いわゆる「MICE」と呼ばれる方々の両方を受け入れてきました。個人やファミリー層は、欧米やシンガポール、香港といった英語圏の方々が多かった一方、団体は中国からの参加が多く、中国の超大手IT企業が部門やチーム単位で繰り返し来られることも多かったです。

 


--貴社の独自性や強みについてお聞かせ下さい。


剣道は一般のメジャースポーツと異なり、「段位」や「道場」といった武道文化性による特殊な秩序が存在します。そのため、これまでいろいろな方が剣道領域でビジネス展開にチャレンジしてきましたが、「正統性」がなかなか得られず、イノベーションが生まれにくい状況が続いてきました。


 その点弊社では、独自のネットワークを駆使し、いずれの事業も「全日本剣道連盟」「全日本道場連盟」「スポーツ庁」といった監督官庁へとお話した上で、剣道として「正統性」を持ったサービス展開を行なっています。この点は、単に「マーケティングが上手い」「デジタル活用ができる」といった文脈だけでは成り立たない部分ですので、弊社サービスの独自性や優位性といえる部分だと考えています。

 

 

--剣道の独特な文化を踏まえて事業展開をされているのですね。貴社が抱えている次の課題についてもお聞かせ下さい。

 

あらゆる事業でも同じだとは思いますが、製品のブランディングやユーザー獲得が課題です。ECでいえば、剣道具は直接身に着けるものであるため、「採寸」がかなり重要となります。その点で言うと、リアル店舗の方が大きな信頼があるため、そのハードルをどう越えるかというところは難しい問題です。

 

また、剣道具は「スポーツギア」であるだけでなく「伝統工芸」としての側面もあるため、そういった側面から付加価値をつけて単価上昇を行う必要があります。しかし、先述の通りもともと情報発信をしてこなかった業界であるため、ブランディングが非常に難しいところでもあります。

 

剣道体験ツアーにおいては、「海外にいる剣道を知らない人」「外国人旅行客」といった方々に向けたアプローチが必要となります。この部分は、いわゆる「インバウンド」「旅行業」といった領域で、取り組むべき施策がECとは全く異なります。

 

このような面で、集客方法に関しては日々模索している状況です。

 

 

--実際にどういった施策に取り組んでいるかお聞かせ下さい。

 

ECでいえば、商品ページの情報やキュレーションメディアを充実させ、ユーザーの皆様により多く、かつ具体的な情報提供を行なっています。また、サイトの裏側に商品選定や採寸等をサポートする人間がきちんといることを伝えるため、個別での採寸シートを導入したり、LINE公式アカウントでスタッフと直接やりとりできるようにする等、剣道具選びにおいて安心と信頼をいただけるような設計を行なっています。
 

また、海外への販売にも注力していきたいと考えています。実は海外では、現地のメーカーや工場から直送が可能であるため、海外業者が独自の販売サイトを作って販売しています。

 

また先述の通り、国産と海外製に大きな差がないことも周知されてきていることから、単に「メイドインジャパン」「日本メーカー製」というだけでは売れない状況になってきています。そこで、再度ブランディングや情報の整理、海外コネクションの構築に取り組み、海外販路開拓を行っていく予定です。
 

剣道体験ツアーに関しては、海外から著名なYouTuberの方に参加いただき、動画撮影を行ったり、海外のメディアへの露出に注力しています。直近では、東京オリンピック関連で取材や動画撮影等の依頼も多く頂き、「海外向けコンテンツ作成」という新たなビジネスと共に、それ自体が海外へのPRツールにもなっています。

 


さまざまな需要に応えられるサービス展開を目指して

 


 

--今後の中長期的な事業展望についてお聞かせ下さい。

 

「剣道の経済圏」を構築したいと考えています。剣道には、あらゆるターゲット層やタッチポイントが存在します。例えばECモールの「KENDO PARK」であれば、「国内の剣道家」の方々がメインターゲットです。一方で、剣道体験ツアー「SAMURAI TRIP」では、「剣道をやったことのない外国人旅行客」がメインターゲットとなります。そのほか、「外国人剣道家層」「国内のライト剣道家層」「昇段を目指すコア剣道家層」といった具合に、ターゲットによって必要なサービスは異なります。このいずれにおいてもマネタイズができるよう、サービス設計と拡大を行なっていきたいと考えています。
 

上記の一例として、あるとき剣道体験ツアーに参加いただいたお客様が、そのまま剣道具を購入し、一時的に日本の道場で稽古をした上、帰国されてから現地の剣道チームに加入されたということがありました。これはまさに、「剣道を知らなかった人」が剣道に触れることで、「体験する」「稽古する」「用具を揃える」といった複数のポイントでマネタイズが起こった事例でした。このように、道場や剣道具店、指導者等も含めて、剣道を取り巻く「経済圏」が循環する環境構築を目指しています。

 

 

--今後、どういった業種と協業したいかお聞かせ下さい。
 

協業としては、訪日外国人向け剣道体験ツアー「SAMURAI TRIP」の拡大に向け、海外メディアへのコネクトをサポートいただけると幸いです。剣道業界内部においては、ある程度独自ネットワークでコネクトが可能なのですが、いわゆる「訪日外国人」「インバウンド」という観点では、自社だけではなかなか接点を持てない部分ですので、そこをサポートいただけると幸いです。
 

この領域は、「武道ツーリズム」ともいわれており、現在スポーツ庁や自治体でも政策として推進しているところです。そういった部分でも、協業させていただける機会があれば、大変幸いです。

 

 

--最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?

 

どんな領域であっても、とにかく「抜きん出る」ことが大事だと思っています。多様性や情報発信が進んだ現代では、自己に関心を集めることがあらゆる領域で難しくなってきていると思います。その中で、たとえ狭い領域やニッチ業界であっても、何とか突出していくことが重要ではないかと考えています。弊社もまだまだ規模が小さく、認知も信頼も足りていない状況だと自覚しています。引き続き「剣道の経済圏」の構築に向けて、邁進していきたいと思います。


 

--本日はありがとうございました。

 

 

株式会社パークフォーアス
https://www.parkforus.co.jp/

剣道具専門通販セレクトショップKENDO PARK
https://kendopark.jp/


 

Professional Onlineでは無料で経営者インタビューに掲載いただける方を募集しています。

お問い合わせフォームよりご連絡ください。

 

 

詳細の説明はこちら
SHARE
COPYLINK

プロフィール

株式会社パークフォーアス代表取締役

永松 謙使

会社情報

株式会社パークフォーアス