環境印刷を徹底することで「世界一の印刷会社」を目指す

環境印刷を徹底することで「世界一の印刷会社」を目指す

株式会社大川印刷 代表取締役社長 大川 哲郎

カテゴリ: 製造、従業員数: 10〜49

2022.02.08

大川 哲郎(おおかわ・てつお)

株式会社大川印刷 代表取締役

神奈川県横浜市出身。大学卒業後3年間東京の印刷会社で修行し、その後大川印刷へ入社。横浜青年会議所にて2002年社会起業家の調査研究、2004年に企業の社会貢献・CSRの調査研究を機に2004年、本業を通じて社会課題解決を行う「ソーシャルプリンティングカンパニー®」というパーパス(存在意義)を掲げる。現在はもともと5代目だった母の後を継いで6代目として株式会社大川印刷を運営している。

 

 

 

現在印刷業界は、電子書籍やインターネットの普及によって市場が緩やかに衰退しています。しかし市場の衰退に伴い、生き残るためにさまざまな取り組みを行う企業が増えています。今回は、印刷業界で新たな挑戦をしている株式会社大川印刷代表取締役の大川様にお話をお伺いしました。

 

 

先代の後を継ぐために印刷業界へ

 

 

 

--本日はよろしくお願いします。早速ですが、大川さんが代表になられるまでの経緯をお聞かせください。

 

1967年横浜に生まれ、幼少期から生き物や植物、自然が好きで、自然と触れ合いながら育ちました。大学卒業後3年間は、東京の印刷会社で修行をしまして、その後大川印刷へ入社しました。

 

横浜青年会議所で行った2002年社会起業家の調査研究、2004年に企業の社会貢献・CSRの調査研究を機に2004年、本業を通じて社会課題解決を行う「ソーシャルプリンティングカンパニー®」というパーパス(存在意義)を掲げ、現在に至ります。現在は、140年目となる大川印刷の6代目になります。

 


--環境印刷やSDGsへ取り組んだ経緯を教えてください。

 

きっかけは、たまたま参加したとあるセミナーでの講師の一言でした。

 

もともと大川印刷は、父が4代目として運営していました。しかし大学に入学した18才の時に医療事故によって父を亡くしました。その後、大学を卒業し私が入社するまでの3年間、母が5代目として会社を守っていてくれたのです。

 

その後、私も大川印刷へと入社したのですが、当時はちょうどバブル崩壊の時期であったこともあり、売上はどんどん減少、このままでは会社が続かないと危機感を抱いていました。そんな時、参加したあるセミナーにて企業の社会的責任について深く考えるようになったのです。

 

私が思うに、企業が存続していくためには社会的責任を果たす必要があり、その責任とは社会課題の解決を通じて社会に必要とされる企業になるということです。通常の企業ではコンプライアンスの観点や社会貢献などから社会的責任を果たそうとしますが、弊社は「本業を通じて社会課題を解決すること」に軸を置いています。

 

その活動を11年ほど続けていた2015年に新たにSDGsという言葉が登場しました。ですが、その時にはすでに社員一人一人の中に社会課題解決の意識が共有できており、当たり前のように感じていました。だからこそ、SDGsについてもすんなり受け入れ、事業に取り入れていくことが出来たのです。

 

 

--大川社長自身が環境問題に関心を持たれたきっかけはなんだったのでしょうか?

 

生まれ育った環境が影響していると思っています。横浜生まれですが、庭に沢蟹が上がってくるような地域でしたので、自然と触れ合うことができました。
 

しかし時代が変わり自然がどんどん減少していると感じています。弊社も紙を大量に使用しますし、リサイクルはしていますが処分もしております。そのためなんとも言えないもどかしい気持ちがありました。

 

そこで、事業を通して環境問題解決に貢献したいと考えるようになりました。

 

 

環境印刷を徹底して世界一の環境印刷会社にしたい

 


--現在印刷事業を中心に事業展開されていると思いますが、改めてご説明をお願い致します。(印刷物の企画・デザイン・印刷・加工)
 

現在は主に環境印刷の取り組みを行っています。印刷に関しても環境が変化していく中で、どのように対応すればいいかが問われています。弊社では、変化への対応よりも創造を重視したいと考えておりまして、変化創造型企業を目指しています。自ら変化を創り出していく、それが私たちにとって「新しい経営の定義」です。

 

これまでは情報を正確に分かりやすく、より多くの人に、そして美しく伝えるということを主眼に仕事をしてきました。ですが、これからは全ての業種業界にあるネットワークを使って、社会課題解決をしていくハブとなる印刷会社へ進化していきたいと考えています。

 

印刷会社がより売上を上げるためにはどれだけ印刷する製品を増やしより多く印刷できるかがポイントでしたが、今はそれでは通用しないと思っています。なぜならそれではより多くの環境負荷を与えてしまうからです。私たちはその前に社会の課題解決につながる印刷でないといけないと考えました。お客様が抱える課題に対してさまざまなネットワークで解決していくのが、新しい印刷業の定義だと考えています。

 

 

--環境印刷の特徴はなんですか?
 

事業の特徴として、主に4つの柱があります。

 

まずひとつ目はノンVOCインキです。

弊社では、大気汚染や化学物質過敏症の原因となる揮発性有機化合物を含まない、ノンVOCインキ(石油系有機溶剤0%)を積極的に使用しています。また、使用する印刷機ローラー洗浄剤、印刷機湿し水添加剤など、使用するすべての溶剤について安全性への配慮を徹底しています。その結果、有機則に属する有機溶剤は不使用となっています。

 

2つ目が用紙についてです。違法伐採による材を使用していないことを第3者機関が認証しているFSC®森林認証紙を積極的に活用し、現在(2020年度)使用する紙全体の74%を占めるまでに至っています。その他、間伐紙や非木材紙など様々な環境へ配慮した用紙の中から、デザインや印刷物の目的に合わせ、最適な用紙を選定し、お客様が伝えたいことを的確に表現していくほか、いわゆるファクトチェック(情報の正確性・妥当性の検証)を行った上で制作を行っております。

 

そして3つ目が、CO2ゼロ印刷です。2019年、自社太陽光発電20%+青森県横浜町の風力発電80%で「再生可能エネルギー100%印刷工場」を実現させました。弊社の印刷は再生可能エネルギー100%で行っています。つまり、石炭火力発電ではなく、太陽や風力などの再び使えるエネルギーで印刷しています。いわば「風と太陽で刷る印刷」です。2020年10月からはLCA(ライフサイクルアセスメント)に基づき、自社で印刷物のCO2においてサプライチェーン排出量をソフトで計算し、その全量をゼロ化するサービスもスタートさせました。

 

最後に配送です。持続可能な社会や健康的な生活を次の世代に引き継ぐため、より環境負荷の少ない電気自動車やクリーンディーゼル車を使用し活動しています。また、納品における段ボール使用量の削減、処分に伴う廃棄物削減のためにプラスチックコンテナによる納品を行っています。

 

 

--様々な取り組みを行っているのですね。貴社の独自性や強みについてもお伺いできますでしょうか。

 

弊社の強みは従業員です。従業員全員の取り組みによって2018年、第2回ジャパンSDGsアワード「SDGsパートナーシップ賞(特別賞)」を受賞しました。全社的な取り組みとして、ワークショップを行って、そこで話し合った内容を1年ごとに更新しながら、取り組みを続けています。10年前からこの取り組みをやっていて、一般企業よりも自分事として課題を考えることができているように思います。

 

また、中小印刷会社としては初めてSBT(Science Based Targets)の認定を2021年2月に受けています。SBTはパリ協定(世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準(Well Below 2℃)に抑え、また1.5℃に抑えることを目指すもの)が求める水準と整合した、5年~15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標のことで、科学的根拠に基づきその目標を設定していることを認定するイニシアティブです。

 

我々は古くから『人々の命を守る印刷』に携わってきました。特に、食品や医薬品に関わる印刷には特に最新の注意を払う必要があります。なぜなら、アレルギー表示や用法・用量の表示に誤りがあると、人々の命に関わる重大な事故に繋がりかねないからです。現在は全ての印刷機にCCDカメラを設置して、常に正確な印刷物を提供できるように努めています。

 

 

地域や社会の課題解決にも貢献したい

 

 

 

--今後の中長期的な事業展望についてお伺いできますか。


「強い者が生き残るのではない、変化に適応できる者が生き残る」という言葉がありますが、今の時代は変化が早く、変化に対応しようとしている間に次の変化が起きてしまいます。ならば小さなことでもいいから自分達から変化を創っていく、「変化創造型企業」を目指そうと話しています。常に変化を起こしていきたいと思っています。

 

一歩踏み出すのには様々なきっかけがあります。一番大事なのは、希望を持てるような考えを持つことです。経営者が環境について考えざるを得なくなった時、どれだけ自分の会社だけ生き残ろうと考えたとしても、それはそもそもおかしなことだと思っています。

 

自社の経営の持続可能性を目指すのであれば、その前に考えなければならないのは地球の持続可能性ではないかと思うのです。会社にとっての使命とは何なのかを問いかけながら、地域や社会の課題解決をすることで「ありがとう」と感謝して頂けると感じています。

 

弊社は、2025年スコープ3を含めてゼロ化を進めることを目標にしています。しかしながら世界一の環境印刷会社になるためには、精神的にも豊かになる必要があります。2021年、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書では今までにはない厳しい口調で今すぐに行動をしなければならないというメッセージがありました。

 

 

--最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?

 

弊社では、脱炭素経営を印刷からやってみるという提案をしております。「会社案内+α(会社案内アルファ)」という商品・サービスがあります。今お持ちの会社案内にESG、SDGsの要素を真剣に加えていこうというものです。真にSDGsにつながる部分をコンサルしながら具体的なアドバイスをしていきたいと考えています。

 

またNPO、NGOとの連携を常にしていますので、それら団体との橋渡しを行い、ただ単にアイコンだけのSDGsを見せるのではなく、実際の活動の推進のお手伝いをしていきたいと考えています。

 

現時点で企業が存続できているということは、少なくても地域や社会から必要とされてきたからこそだと思います。でもそれが3年先、5年先も同じかどうかはわかりません。そのため地域や社会に必要とされている部分を今一度見直して、その強みを深化、進化させ活躍していって頂きたいと思います。

 

 

--ありがとうございました。

 

 

株式会社大川印刷

https://www.ohkawa-inc.co.jp/

 

 

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プロフィール

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大川 哲郎

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