小川 智也(おがわ・ともなり)
MRT株式会社 代表取締役社長
1973年6月19日生まれ。2002年、医師国家試験合格。大阪府立千里救命救急センター、国立病院機構大阪医療センター救命救急センターでの勤務を通して、医療現場を別の角度から考えたいと感じ、2011年9月、MRT株式会社取締役事業本部長に就任。取締役執行役員経営戦略室長、取締役執行役員事業本部長、取締役副社長を経て、2019年4月より代表取締役社長・メディカル・ヘルスケア事業本部長。2018年3月から株式会社CBキャリア(現株式会社日本メディカルキャリア)取締役、2020年1月からVantage株式会社代表取締役社長も務める。
健康経営に対する意識の高まり、働き方改革によるワークスタイルの多様化、さらにコロナ禍の影響も受け、企業における社員の健康管理のあり方が問われています。ICTの進化に伴う新しい情報提供の形が模索されるなか、オンラインを活用した新しい医療サービス事業を展開するMRT株式会社代表取締役社長の小川智也様にお話を伺いました。
医療現場で実感した問題の改善を目指す
ー 本日はよろしくお願いします。早速ですが、小川様のこれまでの経歴とMRT社への参画に至った経緯をお聞かせいただけますでしょうか。
元々私は大阪の救命救急センターに勤務していました。毎日のように人間の生死に関わる環境であったため、そうした深刻な状態を未然に防ぐために予防医学を学んでいました。そのような中で、現行の医療制度に違和感があり、医師とは違う観点から日本の医療を改善できないかと考えるようになりました。これがMRT社への参画に至るきっかけです。
そのような中で、単なる人材会社ではなく、社会的問題となっている医師不足の解決を目標に掲げていたMRT社と出会い、「医療現場で感じた疑問や課題を改善したい」という私の考えにマッチしたため、参画することにしました。
時代とともに変化するニーズに対応する
ー 多様な事業を展開されているなかで、「Door.(ドア)」について詳しくお伺い出来ますか?
「Door.」は、全国約2万の医療施設、約7万人のドクターとのネットワークを活かして、健康相談から診療までを一気通貫で利用できるオンラインサービスです。
相談者はテキストチャットで医療者に対して健康相談を実施することができ、医療者が面談の必要性を感じた場合や、相談者が医療者と面談したいという場合はオンライン面談を実施します。現在はSlackやLINEなどの普及により、テキストベースで相談することに対する抵抗を感じない方が増えています。また、当社のサービスでは、こうしたアプリケーションを使っている方であれば抵抗感なくご利用いただけるインターフェースを採用しています。
オンライン診療やオンライン健康相談といったサービスはこれまでもたくさんありました。しかし、健康相談と診療が明確に分けられているものが一般的で、健康相談では相談者の訴えに対して断定や処方ができません。一方、相談者や患者さんにとってみれば、健康についての心配事を相談するその先に診療があります。相談して曖昧な情報を提供されるとかえって心配になってしまうこともあります。
そこで相談から診療までを一気通貫で行うサービスが必要だと考え、「Door.」を開始しました。
ー 「Door. into 健康医療相談」として、企業向けにも提供されていますね。
従業員の健康サポートツールとして企業様に「Door.」を活用していただけるよう企業向けの提供も行っております。従業員の方は所属する企業や店舗から配布されるキーを入力することで、医療者との相談を無料で行うことができます。
産業医設置義務の対象ではない企業様でも、気軽に医療相談を利用いただくことが可能です。オンラインで完結するため場所を選ばず利用可能なことから、専属産業医の設置が義務付けられている企業様の場合もご利用いただけます。また、複数拠点をお持ちの企業様などは、各拠点の従業員に対して均等な福利厚生を提供できるようになります。
ー ありがとうございます。リモートワークが広がる中で、健康相談に対するニーズにどのような変化がありましたでしょうか?
テレワークが増え、社員間のコミュニケーションが取りづらいなか、オンライン診療に対するニーズが高まっています。とりわけ、一人暮らしでテレワークをしている社員のメンタルヘルスケアに不安を抱えている企業の相談が増えており、従来の産業医とは異なる形でのサービスが求められています。
通常、産業医の面談を利用するためには人事担当者に話を通す必要があります。こうした手順を踏まず気軽に医師に相談できれば、より早い段階で専門家のアドバイスや診療を受けることができ、悪化を未然に防ぐことにもつながります。
ー 産業医のあり方や企業の健康管理意識も変わってきたということでしょうか?
その通りです。産業医という制度は、これまでの製造業を中心とする産業構造の中で誕生しました。しかし、近年はサービス業の比重が大きくなり、ITにより働き方そのものが変化したことで、産業医のあり方も大きく変わってきています。
さらに、コロナ禍を経験して健康に対する企業様の考え方も変わったと感じています。これまでは健康診断で基礎疾患を見つけることが重視されてきましたが、治療法が確立されていない新型コロナウイルスを経験して、普段の健康管理が非常に大切だという意識が強くなってきました。衛生環境の構築について見直す必要もあり、医療関係者から的確なアドバイスを受けて、タイムリーかつスピーディーにそれを反映していくことが求められています。
ITツールを活用し企業の衛生環境を整えて、企業が従業員の健康を守っていけるような仕組みを構築していきたいと考えています。
ー 企業の健康管理意識も変化していく中で、どのような企業様が貴社サービスを有効活用されていますか。
元より社員の健康管理について課題を感じていたが有効な対策を打てていなかった、というような企業からは利便性が高いとご好評をいただいております。
健康の問題をうまく管理できないと、社員の退職を招いて離職率が高くなってしまいます。反対に、日頃の健康状態を把握できれば、健康上の問題やトラブルが起こる可能性をリアルタイムでチェックでき、組織マネジメントに活用できます。当社のシステムであれば人事業務を効率化するHRテックとの親和性も高いと思います。
多彩な領域との連携やアプリ開発も視野に
ー 「Door. into 健康医療相談」の今後の拡大戦略についてお伺いできますか。
サービスの出口となるオンライン診療や医療機関の部分をより充実させていきたいです。
医療機関、医師の充実したネットワークを活用して、産業医によるアドバイスや様々なアプローチといった入り口から、オンライン診療や医療機関の紹介といった出口までサービス提供できることが私どもの強みであり、後者をより強化していく事が今後の目標です。
ー 目標達成に向けた取り組みとして、具体的にはどのような活動が求められるのでしょうか。
既に内閣府のスーパーシティ構想と連携して、医療・ヘルスケア分野での取り組みを始めています。
また、医療版MaaS(サービスとしてのモビリティ)の実現も目指しています。山間部や、医療アクセスが悪い地域での重篤化を防ぐために医療版MaaSの車両に必要な通信・医療器材を積み込み、オンライン診療ができるサービスの提供などです。さらに、当社には約7万人のドクターとのネットワークがありますので、専門的な診療に対応できるドクターと利用者を直接つなぐ展開も考えています。
また、そのために新たなデバイスやアプリケーションの開発も必要だと考えています。
より手軽に合理的に医療を提供できる環境をつくるためには、例えば1滴の血液や尿で健康状態がわかる生体を傷つけないデバイスとの連携などが必要です。
スマホのアプリで健康管理ができればCTやMRIの利用も控え、必要な方が迅速に診療できる状態を作ることが出来ます。
実際に精神疾患や肝臓疾患、禁煙の治療に、患者さんが行動変容を起こすアプリが既に活用されています。
こうしたアプリを使った医療サービスは、オンライン診療と非常に親和性が高く、弊社としても今後進めてきたい領域です。そのため、海外も含め開発協力できる企業と連携していきたいと考えております。
ー 最後に、読者へメッセージをいただけますか。
労働環境をどのように改善して、パフォーマンスを上げていくべきかという問題を検討しておられる企業にこそ、当社のサービスを活用いただきたいと考えています。
医師や医療機関との連携はハードルが高いと思われがちですが、抵抗感をもたずに弊社サービスを活用していただくことで、社員のパフォーマンス向上、健康経営に繋がることを実感いただけると思います。
ご興味ある企業様は是非ご連絡ください。
ー 本日はありがとうございました。
MRT株式会社
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