後藤 裕幸(ごとう・ひろゆき)
株式会社グローバルトラストネットワークス 代表取締役社長
中央大学法学部在学中の2000年に外国人留学生らとともに起業したのを契機に、2003年に有限会社ミューゲートを立ち上げる。続いて2004年に設立した株式会社ミューではアジア地域に特化した調査レポートを次々と発行し、好評を博した。2006年に同社代表取締役を退き、株式会社グローバルトラストネットワークスを設立。
少子高齢化・人口減少が進む日本が経済成長を続けるには、海外からの人材受け入れが解決策の一つですが、日本に住む外国人の多くが、習慣の違いや言葉の壁のために不便を感じているのも事実です。学ぶ場所や働く場所として日本が選ばれ続けるために、外国人の生活支援を軸に事業を展開している株式会社グローバルトラストネットワークス代表取締役の後藤様にお話をお伺いしました。
外国人留学生との交流が起業のきっかけ
--本日はよろしくお願いします。早速ですが、後藤様のこれまでのキャリアや起業のきっかけをお聞かせください。
初めて事業を立ち上げたのは2000年、中央大学法学部在学中でした。事業内容はオンラインゲームとファッションサイトの運営です。もともと起業を志していたわけではなく、大学入学当初は弁護士を経て政治家になりたいと考えていましたが、転機となったのは自分で立ち上げた「株式投資サークル」です。当時はITバブルの時代で、サイバーエージェントの藤田さん、ライブドアの堀江さんなどの若い経営者が登場していました。
そのような状況で、「株式投資サークル」を立ち上げたところ、初年度から50人も加入する大規模なサークルになりました。そしてあるとき、韓国人留学生が加入したのをきっかけに、各国からの留学生がどんどん参加するようになります。彼らから日本への留学にかける思いなどを知り、多くのことを学びました。そうして親しくなった韓国・中国の留学生たちと一緒に、在学中からビジネスを始めることになったのです。
2003年に有限会社ミューゲートを設立し、社長に就任しましたが、この会社は2004年に事業譲渡してしまいました。韓国で当時流行していたオンラインゲームやファッションサイトを運営していたのですが、ファッションサイトはユーザーは増えていたものの、その頃はキャリア決済がメインでドコモのiモードの公式サイトになれなければマネタイズが難しい時代だったのです。またオンラインゲームの方も、まだ家庭にブロードバンド回線を引くのが一般的ではない時代だったので想定していたほどうまくいきませんでした。
事業譲渡のあと、2004年に株式会社ミューを設立しました。この会社では自分の周りの優秀な外国人の人材ともに主に中国、韓国などのアジア地域のマーケットリサーチ事業を展開し、業績は順調でした。特に中国の電気自動車企業や携帯電話市場、SAMSUNG電子に関するレポートなどが好評を頂いていました。
あるときから韓国企業に関するレポートを重点的に作成するようになると、当時は韓国に特化した調査会社が他になかったこともあり、日本中の有名企業から韓国進出に向けた調査レポートの依頼をいただくようになりました。この事業を通じて痛感したのは「情報の価値」です。また小さな規模の会社でありながら、国内の大手企業のトップの方々と仕事ができたことで度胸が身につきました。更に社内は自分以外は全員外国人という状況だったので、彼らから積極的に自己主張するなどの新たな文化を吸収することもできました。
こうした経験を経て、2006年に株式会社グローバルトラストネットワークスを設立するに至ります。
日本で暮らす外国人の生活上の不便を解決するために
−−続いて、貴社で現在展開している事業の概要についてそれぞれお伺いできますでしょうか。
当社の事業の柱は外国人専門の家賃保証事業と、同じく外国人専門の携帯電話サービス事業(MVNO)であるGTNモバイル事業です。
初めにお話しておくと、弊社の事業は事業ドメインではなく、課題解決からスタートしています。外国人の知人たちとの交流を通じ、日本で生活する上で様々な課題があることを認識していました。その中でもまず衣食住に関する問題や、特にハードルが高い住宅に関する問題の解決のために立ち上げたのが外国人専門の家賃保証事業です。
日本で賃貸住宅を借りる場合、保証人や連帯保証人が必要になります。保証人は日本国内に在住していることが求められるので、それだけで外国人は日本で賃貸が借りづらい状況でした。私自身も、多くの外国人の知人から保証人を依頼された経験があり、大きな問題意識がありました。
そこで外国人に特化した家賃債務保証事業をスタートしたのですが、初めは全く売上が立たず、苦労しましたね。外国人を入居させることに後ろ向きな雰囲気がありましたし、保証会社として弊社自体に信頼性が求められるなどの困難はありましたが、実績を蓄積していくことでクリアできました。また事業開始以来、震災などの自然災害や反日デモなど様々な社会情勢の影響を受けましたが、リスクを最小化できる体制を構築してきました。
それらの過程を経て、現在は1万社以上の不動産会社が利用し、契約数が約20万件の規模に成長し、業界のパイオニアかつ最大手となっています。
--この事業がこれほど大きく成長したポイントはどのようなものだとお考えでしょうか。
利用者との密なコミュニケーションがポイントだと考えます。
これは家賃保証事業の強みでもあります。最近の例ですと、新型コロナウイルスの影響で母国に一時帰国したまま日本に戻れなくなった留学生がいます。そのため日本で借りている部屋の家賃が払えなくなったのですが、こういったケースでは一般的な不動産会社は本人に連絡が取りたくても取れないことが多いです。
ところが当社なら本人だけでなく親族にもコンタクトをとることができます。なぜなら当社の場合、初めから部屋を借りる本人だけでなく、いざというときには「親御さんのご協力を受ける」のを前提として審査をしているからです。
そのため、海外にいるご家族とのコミュニケーションを取る専門組織である「生活サポート部」に社内で最も多くの人員を割いています。この部署では年間8万件の相談を受けていて、日常的にコミュニケーションを取っているから、トラブルが起きたときにも本人や親族と連絡を取ることができるのです。
ちなみに当社の社員は70%以上が外国人で20か国近い国籍の方が在籍しています。皆さん日本語を含めて3言語以上話せる、優秀な方ばかりです。
--ありがとうございます。続いて、もう一つの柱である外国人専門の携帯電話サービス(MVNO)事業についてもお伺いできますでしょうか。
GTNモバイル事業は2014年の規制緩和を機に立ち上げた事業で、国内ではパイオニアです。日本では3大キャリアから携帯電話を購入する場合は割賦形式が一般的ですが、実はこれは一種の金融商品なので、日本国内で信用がない外国人は審査が通らないために携帯電話を契約できないという問題がありました。
この問題を解消するのが弊社の携帯電話サービスです。弊社は家賃保証事業で得られたリスク管理、多言語でのサポートに関するノウハウがありますので、契約に際しての審査・回収・サポートを一気通貫で対応できるのが強みです。
家賃保証事業などを通して、国内在住の外国人コミュニティに基盤があったこともプラスに働きましたね。この事業も初めは様々なトラブルがありましたが、PDCAをとにかく回すことで成長し、今では家賃保証事業に次ぐ収益の柱となっています。
外国人材が日本で安心して暮らせる社会を作る
--後藤様の今後の事業展望についてお聞かせください。
これから伸ばしていきたい事業は2020年6月に開始したGTN Assistants事業です。この事業では日本に住む外国人を対象に、月額1500円で電話やチャットで日常生活の困りごとの相談や情報発信、医療通訳などのライフサポートサービスを提供しています。
コロナ禍で日本に来られなくなっている留学生がたくさんおり、留学先を別の国へ変えた方もいます。このままでは日本が素通りされてしまうのではないかという危機感から、外国人に長く日本に定着してもらうためにサポートしたいと考えています。
--事業を通じて今後実現したいことを教えていただけますか。
外国人材が安心して暮らせる社会を実現し、彼らが帰国後も継続的に日本と良好な関係を築けるような環境を作りたいですね。日本では少子高齢化が進んでいますが、一方で世界全体の人口は増え続けています。そのような状況で、日本が経済成長するには外国人材に日本に来てもらう以外にありません。
しかし日本は旅行客からの評価は高いですが、長期滞在者からの評価は必ずしも良くないのです。せっかくお金と労力をかけて日本に来ているのに、ネガティブな思いを抱かせてしまうケースがあり、いずれ日本が選ばれない国になるのではないかという懸念をしています。
そのため、上述したような環境を実現していきたいです。
--最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?
業界を問わず、外国人を採用している会社(特定技能・技能実習生含む)は当社がお役に立てる点があると思いますので、お気軽にご相談いただければと思います。また日本にいる留学生の親族を対象としたVFR(Visiting Friends and Relatives、知人・家族訪問)は日本でも今後、市場が拡大すると想定しています。コラボレーションができそうな企業様がいればぜひお声がけいただけますと幸いです。
--本日はどうもありがとうございました。
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