小倉 祥子(おぐら・しょうこ) 様
株式会社銀座テーラーグループ 代表取締役社長
青山学院女子短期大学家政学科卒業。1999年英国王立音楽大学にピアノ留学。2004年マーケティングを学ぶため米国の大学に留学。2008年銀座テーラーグループ入社。専務取締役などを経て、2019年に代表取締役社長に就任。
近年、急激なカジュアル化が進み、オーダーメイドのスーツを着る機会は減少しています。特別な機会だからこそお客様のこだわりや個性を反映した商品を提供したい。そんな思いから事業を展開する株式会社銀座テーラーグループ代表取締役社長の小倉様にお話をお伺いしました。
モノづくりの現場を自ら体験し、社長へ
--本日はよろしくお願いします。早速ですが、小倉様のこれまでのキャリアや代表就任に至るまでの経緯をお聞かせください。
芸術に触れる機会の多い家庭で育ち、小学校の頃からピアノを習っていました。中高時代にピアノを専門的に学びたいという思いが強くなったこと、また元々海外志向が強かったことから、英国王立音楽大学に留学しました。
ですが、幼少期から英才教育を受けてきた他の生徒との圧倒的な技術や場数の差を実感し、初めての挫折を経験しました。そこで別のキャリアを歩むことを考え、2年間でピアノ留学を終了しました。その後は母親が経営していた銀座テーラーを継ぐために、アメリカのビジネスコースで2年ほどマーケティングを学び、帰国後は社会経験を積むためにウェブ上でコンサートチケットの販売を行う企業の販促事業部で1年半ほど勤務しました。
それらの経験を踏まえて、2008年に銀座テーラーグループに入社し初めは現場を知ることが重要だと考え、販売やアトリエでのモノづくりの現場も自ら体験しました。その後管理職や専務の経験を経て、2019年に代表取締役社長に就任しました。
--アメリカでマーケティングを学ばれたとのことですが、そこで培われたスキルは銀座テーラーの業務に直結されているのでしょうか?
はい。特にアメリカは日本よりもインターネットの発展が早く、WEB活用における最先端の知見を吸収出来たことは非常に大きかったです。当時はFacebookが登場したばかりで、アメリカでは既にSNSやブログをビジネスのコミュニケーションツールとして活用していたのは、とても目新しかったと思います。そのため、HPに加え、ブログやSNS等の情報発信ツールをいち早くビジネスに取り入れることが出来ました。
--銀座テーラーに入社された後にご苦労された点はございましたか?
経営者の娘という立ち位置ゆえ、他の従業員とのコミュニケーションが取りづらいと感じていました。その解決のためには、自らも従業員として現場を経験する事が必要だと考え、1年ほど販売営業を経験しました。その経験を経て従業員とのコミュニケーションも次第に良好になっていきました。
--販売営業をされていた際、大変だと感じられたのはどのような点でしょうか?
お客様の期待値とこちらが提供できる技術のすり合わせを行うことです。
当時はメディア露出の機会が多く、期待値がとても高い状態だったためお客様の要望に応じることのできない技術者に対して不満を抱くこともありました。しかし技術者には技術者なりのこだわりや考えがあることに気付き、長い時間をかけて技術者への理解やリスペクトを培っていきました。
お客様一人一人に合ったこだわりのある商品を提供したい
--現在テーラー事業を中心に複数事業を展開されているかと思いますが、具体的な事業内容をお伺いできますか?
現在3つの事業を展開しています。
①フルオーダー事業
銀座の自社ビルに店舗と技術室を備えており、お客様のご希望に合わせてスーツを製作します。受注、仮縫い、納品に際して3回のご来店が基本であるため、密にコミュニケーションを取る機会があるという点が強みとなります。
また、分業ではなく1人の技術者が一気通貫で制作するため、年間600着を上限としています。かつてとは働き方の価値観や技術者の気質も変わっているため、時代に応じた形での製作方法を心掛けております。
社内の人材としては裁断士は70代のベテランが2名と若者が2名、縫製士は若者が4名在籍しており、彼らの活躍によって本事業が成り立っています。
②教育事業
職人の減少を受けて、2006年に「日本テーラー技術学院」を開校し、現役の職人がテーラリング技術を教えています。テーラリング技術は全てのアパレルに必要とされ、手に職をつけたい方のニーズにも適しているため、コロナ禍でも非常に多くの問い合わせを頂いております。
③GinzaTailor CLOTHO(クロト)
こちらは弊社のセカンドブランドになります。従来よりもリーズナブルで高品質なオーダーの良さを体感してもらいたいという考えから立ち上げました。
職人が持っているテーラー技術を基に国内の外部工場での生産を行うことで低価格を実現しています。例えばフルオーダー商品の場合、価格の下限が27万5千円であるのに対し、クロトは7万7千円からと、安い価格で商品を楽しんでいただけます。
--ありがとうございます。既製品と比較して、貴社の商品ならではの魅力をお伺いできますか?
自身の体に最も適したスーツを着ることができるというのが1番の魅力です。
弊社ではお客様と綿密にコミュニケーションを取り、自社で制作しているため、お客様の体を最も美しく見せる商品を作成することが出来ます。
また、お客様それぞれのシーンや予算に応じた生地のご提案や、こだわりを取り入れることが可能です。男性のお洋服のバリエーションはそれほど多くないですし、今後さらにスーツを着る機会は特別で大切な場面になっていくからこそ、こだわりを反映できるテーラーメイドの商品をお使い頂きたいと考えております。
--セカンドブランドであるクロトの展開において、職人さんの技術を工場で再現することが重要となると思うのですが、その実現にあたってご苦労された点はございますか?
最も苦労したのが、サンプルとなるゲージ服の製作です。
フルオーダーの場合は裁断士が立ち会い、お客様の姿勢や歪みなどを考慮して採寸値を出し個別のパターンを作ります。ですが、クロトの場合は店舗スタッフが採寸を行い最も適したゲージ服を選定するため、どうしても裁断士との技術差が出てしまいます。
その差をカバーするために、外注先のパターンではなく、銀座テーラーの裁断士が保有する何万人ものデータを活用してマスターパターンを独自開発し、それを基にオリジナルのゲージ服を製作しています。これにより、低価格ながらも高い品質の商品を実現しております。
--お客様の主な流入経路についてもお伺いできますか?
WEB検索からいらっしゃる方が多いです。
ホームページでの英語表記や海外モデルの起用によって、海外のお客様も多くいらっしゃいます。20代のスタッフが未経験ながらも意欲的にWEBマーケティングを担ってくれており、時期に応じたキーワードを利用し、より多くのお客様にヒットしやすいような戦略立てもしています。また、写真撮影に秀でた女性スタッフを中心として、動画制作などのSNS運用も積極的に行っています。
スーツを着る機会が減ってしまっているからこそ、良い服を
--今後の展望についてお伺いできますか?
洋服を楽しむ文化を若年層にも共感・浸透させて、テーラー業界がアパレル業界全般を盛り立てていきたいです。コロナ禍により外出する機会が減少し、良い服を着る意義というものが薄れてしまいました。そのような時代の中でも、仕立ての良い服を着ることによって、世界が大きく広がるということを体験して頂きたいです。
特に若年層の方々は、これから様々な節目があり、自身を高める機会に遭遇します。
こだわってオーダーした洋服を持つことは、モチベーションにも繋がりますし、お仕事やプライベートにもポジティブな影響を与えることができると思います。だからこそ、もっと多くの若い方に服を仕立てる素晴らしさを体験して、洋服の持つ力を実感していただきたいと思います。
そのために、WEBツールを強化して銀座テーラーを始め、セカンドブランド「クロト」の認知度を更に上げて、オーダー未体験の方に、洋服を仕立てる素晴らしさと着る楽しみをブランドと共に発信して参りたいと思います。
--最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?
服は自己表現の一つです。自分にとってはもちろん、相手に対して自分をどのように表現したいか、それに伴って選ぶ服は変わってきます。会社の顔となる立場にいらっしゃる以上、ぜひご自身で納得のいく服選びをされてみてください。
また、自分に合った仕立ての良い服は、長期間着用できるよう精巧に手をかけて作られています。作り手にとっては、ご自身の意思で拘ってオーダーされた洋服を、長く大切に着ていただける事を、大きな喜びと感じております。
--本日はどうもありがとうございました。
株式会社銀座テーラーグループ
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