釜澤 剛璽(かまさわ・ごうじ)
Futureflightグループ株式会社FF 代表取締役
新卒でIT企業に就職し、10年ほど勤める。夕張市の財政破綻の際、夕張市のホームページ制作やIT化に携わった経験から2012年に株式会社FFを設立する。本社は北海道札幌市。日本財団「職親プロジェクト」にも加入し、出所者の自立更生支援に尽力している。
日本は超少子高齢化に突入し、働き手が不足しています。また、コロナ禍によって外国人労働者が減り、人手不足に拍車がかかっている状況です。障がい者の就労支援を事業としている企業も多くありますが、それらの企業と一線を画す事業を行っているのが株式会社FFです。刑務所から出所した人、障がい者や難病を患った人など、すべての社会的弱者が活躍できる世の中づくりに日々まい進している代表取締役の釜澤様にお話を伺いました。
財政破綻した夕張市がきっかけで会社を設立
--本日はよろしくお願いします。早速ですが、釜澤さんが起業されたきっかけをお聞かせください。
1990年代、YahooJapanが誕生したり、インターネットが普及しはじめた頃、これからはITの時代になると感じていました。そこでHTMLを学んでみたいと思い、大学に在学しながら、ダブルスクールでコンピューターの専門学校にも通っていました。ITやインターネットが当たり前になる時代に夢を見ていましたね。
大学を卒業後、IT関連の企業に就職。サーバーの提供やホームページ制作、コンサルティングなどを経験しました。10年ほど勤めたのち退職し、2012年に株式会社FFを設立しました。
起業したきっかけは、夕張市が財政破綻した際に、夕張市のホームページ制作やIT化支援に携わっていたことです。街を支援したことを通して人間の可能性を感じ、同時に人材育成や支援をすることに魅力を感じました。それが現在の事業へとつながっています。
使命感を原動力に、社会的弱者に寄り添う
--現在の事業内容について、改めてご説明をお願いいたします。
はい、大きくわけて2つの事業があります。
まずは人材育成や就職支援事業です。主に社会的弱者と言われる立場の方を支援しています。具体的には以下の4つの取り組みがあります。
・刑務所から出所した方の就職支援、自社での受け入れ
・障がい者の職業訓練、就職支援
・札幌市と障がい者共同事業
・シングルマザーや難病を患っている方の支援
次にBPO事業です。弊社は多種多様なジャンルで、幅広く委託を受けています。代表的な委託先はこちらの6つです。
・動物園の運営管理の受託
・道や市のコールセンター
・北海道内の空港での外国人を対象に、生体認証や顔認証、パスポートのチェック
・北海道大学や国立図書館の管理
・施設管理、清掃
・イベント運営
BPO事業は官公庁からの依頼を中心に、一般企業からも依頼をいただいています。日本は少子高齢化によって労働人口も減少し、どこも人手不足です。コロナ禍以前は外国人労働者でカバーしていましたが、今は日本人の中に可能性があるのではないかと考えています。
また、2つの事業は相互に紐付いており、人材支援事業で自社に入社した方がBPOの場で活躍することもあります。
--なぜ社会的弱者と言われる方々を支援する事業に取り組もうと考えたのでしょうか。
いちばんの理由は、「自分がやらなきゃいけない」という使命感が大きいですね。今の日本では、精神疾患を患っている方が増えていますが、そういう方々は働きたくても安心して働ける場が少ないのが現状です。社会的弱者と言われる方たちは、日本の全人口に対して決して少なくはありません。そんな方々の力を信じず、人手不足と言って本当にいいのだろうかと疑問に思ったのです。
また、刑務所から出所してきた方々も、社会的弱者と同じ立ち位置だと思っています。その理由は、元犯罪者というレッテルのせいでなかなか就職できなかったり、人間関係がうまくいかず長続きしないことにあります。また、統計では出所した人のうち、2人に1人は再犯により刑務所へ戻ってしまうと言われています。
さらに、そのうちの7割は無職で収入がないために、再び罪を犯してしまうのです。更正し、仕事を見つけて立ち直ろうと決意しても、チャンスを得にくいのが現状なのです。
私は誰にでも仕事や希望さえあれば、人間は罪を犯すことはないと信じています。たとえば、再犯してしまった7割の人たちが仕事をすることによって、今度はその人たちは納税者になります。同時に街からは犯罪が減り、刑務所の維持費も減少します。そうなれば日本がより住みやすい国になるでしょう。一度は人を不幸にしてしまった人が、今度は仕事を通して人を幸せにする立場になれたら素晴らしいことです。
私たち健常者は、障がい者や罪を犯した人を一括りにしてしまいがちです。しかし、長い人生の中では、病気や事故で障がい者になるかもしれないし、交通事故で加害者になってしまうリスクは誰にでもあると思いませんか。困っている人に手を差し伸べたり、一度失敗してしまった人にセカンドチャンスの場を用意したりするのは、私の中では当たり前なのです。
現在の事業は仕組み化されたビジネスモデルとしてというよりも、使命感が原動力となって運営しているというのが事実です。私が社会に出た頃は就職氷河期でもあり、希望する仕事に就職できない人も大勢いました。そんな社会情勢の中、私は好きな分野で学び、仕事をさせてもらったという世の中に対する感謝の思いがあり、今度は自分が社会に貢献できることをしていきたいのです。
--貴社の独自性や強みについてお伺いできますでしょうか。
人材育成の分野では、刑務所の中から支援を行っていることが強みです。弊社は、札幌刑務所内にある女子依存症回復支援センターのコーディネーターにも就任しました。違法薬物の問題を抱えた受刑者に対し、出所する前から支援を行っています。また、出所後も就職のサポートを行っています。弊社で受け入れる場合も、基本的には全員受け入れるようにしています。
また、障がい者支援の独自性は、就労支援施設の運営だけではなく、自治体との共同事業を行っていることです。障がい者と健常者が一緒に働く場を提供するだけでなく、障がい者と健常者の壁をなくし、お互いが働きやすくなるように様々な施策を行っています。
BPO事業の強みは、受託するジャンルの幅の広さです。一般的なBPOの企業ですと、たとえば清掃のみ請け負う、といったように受託できるジャンルが決まっていることが多いです。弊社ではジャンルは問わず、ワンストップで依頼を受けられます。
失敗してもやり直せる、安心感のある社会の実現に向けて
--今後の中長期的な事業展望についてお伺いできますか。
多くの人が何度でもチャンスを与えられ、誰もが幸せな人生を歩めるよう支援するという軸は今後も変わりません。私はITやデジタルの分野を経験してきましたが、人とのコミュニケーションはアナログでありたいと思っています。障がいや犯罪歴など関係なく、膝をつきあわせ、同じ人間として対話していきたいです。
最近のトピックとしては、食糧支援をするフードバンク事業をスタートしたことがあります。社会的弱者と言われる方々でも労働人口の一員になり、希望を持って生きていけるよう、いずれは衣食住すべて支援できるように事業を展開していく予定です。
また、一般企業からの委託業務もさらに受け入れていきたいですね。私は経済産業省の事業継承アドバイザーに就任していますので、衰退している企業や自治体、働く人や場所など複合的にマッチングしてトータルでサポートをしていきたいと考えています。
--最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?
弊社は、公益財団法人の日本財団「職親プロジェクト」にも加入しています。職親プロジェクトとは、刑務所から出所した人の自立更生支援です。プロジェクトには社会貢献として多くの企業が加入していますが、共感し仲間になっていただける企業をさらに増やしたいのです。
また、弊社はまだまだ小さな企業ではありますが、事業として実現したいことは数多くあります。特に人材教育や支援については手探りで進みながら、日々最善を目指しています。弊社の事業に共感していただける企業様がいらっしゃいましたら、ぜひお声がけください。弊社にはない知恵をお借りしたいですし、働くことを通して日本人が夢や希望を持つことができる世の中を共に創造していきたいと考えています。
--本日はどうもありがとうございました。
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