大隅 隆史(おおすみ たかふみ)
株式会社エンジット・ストラテジー 代表取締役社長
伊藤忠系総合研究所にて業務改善、ITコンサルティング並びにエクイティ・ファイナンス等に従事した後、株式会社プルータス・コンサルティングにてファイナンシャル・アドバイザリー業務の他、ワラントや新株予約権付社債、種類株式等の複雑な金融商品評価業務に従事。その後、みずほキャピタルパートナーズ株式会社(現MCPパートナーズ株式会社)にてバイアウト投資、メザニン投資、経営改善、LBOローン審査(みずほ銀行出向)等に従事し、2019年株式会社明治通りパートナーズを設立。2021年に10年超の実績を有するコンサルティング会社を統合して社名を株式会社エンジット・ストラテジーに変更。多くの資本業務提携や経営改善実績の他、上場企業の金融裁判に関する専門家意見書提出の実績を多数有する。
ベンチャー企業にしても上場企業にしても、資金調達や資本構成の最適化、インセンティブプランや事業承継対策といった資本政策は難題です。資本政策の策定では、高い金融リテラシーや、法務・税務・会計などに関する専門的な知識が求められます。その資本政策や経営についてのアドバイスを経営者に行い、企業の課題を解決しているのが、株式会社エンジット・ストラテジーです。幅広い経営課題をどのようにして解決に導いているのか、代表取締役社長の大隅様にお話をお伺いしました。
企業に寄り添って一緒に成長していく会社
--本日はよろしくお願いします。まずは、大隅さんが起業を意識されるようになったきっかけをお聞かせください。
大学卒業後、伊藤忠系総合研究所に入社して、企業の業務改善などを行っていたのですが、さまざまな企業の経営の課題に向き合ううちに、いつかは経営サイドに行きたいと考えるようになりました。
その後、コンサルティング会社でFAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)業務に関わったり、みずほ系PEファンドでバイアウト投資や経営支援などに取り組んだりしていたのですが、業務上、会計士や税理士、弁護士の先生方とよく仕事をご一緒していました。
このような先生方のもとにはM&Aや資本政策に関する案件の相談が寄せられるわけですが、会計士や税理士、弁護士といった特定領域の専門家だと、幅広いFAS業務には中々対応しきれません。所属していた会社の業務という訳ではありませんが、ボランティアで仲良くなった先生方からの相談に乗っているうちに、現在の会社で共同代表をしている公認会計士の阿部から、会社の立ち上げを打診されました。
阿部とは10年以上の付き合いですし、何度も飲みながら語っていたビジョンも共通するものが多くあったので、阿部のグループ会社に参画する形で、今の会社の代表となったのです。ですから、私が起業したというより、自然な流れの中で経営者になった感じでしょうか。
--「エンジット・ストラテジー」という社名の由来をお聞かせくださいますか。
エンジットは、エントランスとイグジットを組み合わせた言葉です。私たちとしては、スポット業務で終わる付き合いではなく、事業が軌道に乗る前の創業期から、会社を設立したそもそもの目標の達成まで、一気通貫してサポートしていきたいと考えています。目標となる出口は、一兆円企業になることだったり、会社を高く売却することだったりとさまざまですが、どのような目標でも、企業に寄り添って一緒に成長していきたいと考えています。そこで、入り口から出口までの戦略を立てるというビジョンを「エンジット」という言葉に託しました。
Big4に負けない幅の広さが強み
--現在の事業内容を改めてご説明いただけますか。
事業の領域を経営と資本政策に関連する専門業務に特化していて、M&Aアドバイザリー業務や経営コンサルティング、裁判に関わる金融商品評価や、各種ストック・オプションの導入支援など幅広く行っています。
代表的な事業をいくつか紹介しましょう。
1. ファイナンシャル・アドバイザリー
弊社では、M&Aや事業承継といった方法だけでなく、資本業務提携や複雑な金融商品による資金調達もサポートしています。M&Aなどの資本政策では、そもそも、なぜM&Aをしたいのか、その目的をきちんと整理することが最も大切です。目的によっては、他の手段を選んだほうがいいケースもありますので、そのあたりも含めてアドバイスさせていただいています。また、一般的なFA会社は税務ストラクチャリングやドキュメンテーション等は各専門家に大半を依存してしまうケースが多いかと思いますが、弊社はかなりの部分までFA業務として対応しています。FAが各専門家の確認程度の姿勢で臨んでいると、法務や税務としては重要な問題がないとしても、最もクライアント利益に直結する経済論点が抜け落ちてしまう事が起きうるため、必然的に今の形に落ち着きました。
2. 経営コンサルティング
経営方針を決めるためには、まず、自社の現状や外部の環境を理解した上で、会社が目指すべき将来像とのギャップを具体的に設定することが必要です。弊社では、クライアントの現状を正確に把握して、目指すべき将来像とのギャップを解消する手段を具体的なアクションプランとして提案しています。一般的な経営コンサルティングは、アクションプランの立案自体を業務として提供するかと思いますが、弊社のメンバーは現場経験者が多いですので、実行支援を含めてしっかりサポートする点が特徴かと思います。
3. オプション評価
ストック・オプションは、新株予約権のうち、役員や従業員に対して付与されるものです。一般的に知られているのは、税制適格ストック・オプションですが、その特性を良く理解していないと、何のメリットも享受できないまま失効してしまったり、IPOに支障をきたす事もよくあります。弊社では、有償型や無償型、信託型といった選択肢も含めて、最新のストック・オプションの活用法をアドバイスしています。また、上場会社が資金調達目的で発行する新株予約権(ワラント)評価や発行手続きもサポートしています。
4. IPO支援
IPOを実現するためには、証券市場が求めるレベルで、規程の整備や、決算の早期化、内部統制の整備などの管理体制を構築しなければなりません。これらは複雑で多岐に渡ります。弊社では、クライアントの管理体制等を適切に分析して、公認会計士を中心とした専門家チームを組織することで、IPOが迅速に実現できるように支援しています。一般的なIPO支援というと、人的なリソース不足を補うために経理業務等のアウトソーシングを意味する事が多いかと思いますが、それだと足元の課題を解決したに過ぎず、IPOの実現に対しては何の付加価値もありません。弊社のIPO支援業務では、最終的なIPO実現をゴールとして設定し、そのための1つの手段としてたまたま経理業務等の支援を行うこともありますが、その過程では様々な課題の洗い出しと解決を繰り返していきます。
このほかに「株価算定」「PPA」「PMI」「事業、財務、税務デューデリジェンス」「IPO監査」「税務ストラクチャリング」「金融裁判支援」「税務顧問」なども行っています。ここまで幅広く資本政策を手掛けているのは、おそらくBig4(Deloitte、KPMG、EY、PwC)と呼ばれる世界4大会計事務所系列以外では、弊社だけではないでしょうか。このような特徴がありますので、最近では資本政策をトータルサポートする顧問的な引き合いやセカンド・オピニオンの依頼が非常に多いですね。
--多彩な事業を展開されていますが、貴社の独自性や強みはどういったことでしょうか。
弊社の強みは、幅の広さだけでなく、一つひとつの案件についても、ゴールから逆算して実行プランを立案する品質の高さにあると思います。資本政策は、実行後の“あるべき姿”を具体的にイメージして、現状とのギャップを埋めていくことが本来のプロセスなのですが、M&Aにしても買収・売却できたら、そこで終わりといったアドバイザーも少なくありません。
完全成功報酬(M&Aが実行されるまで手数料が発生しない報酬体系)が主流になりつつあるのでそのような傾向が強まっているように思いますが、先ほど申し上げたように、弊社はM&A以外の選択肢も含めてアドバイスしていますし、クライアントのゴールから外れそうになれば、プロセス中に中断をお勧めすることも良くありますので、基本的にはそのような報酬体系にはしていません。
M&Aアドバイザーは営業マンではなく、弁護士や会計士、税理士といった特定領域の専門家と同じように「金融領域」の専門家ですから、常にクライアントのメリットを最優先にする思考を持つべきだと思います。
また、弊社ではM&A実行後のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)もしっかり行っています。M&A実行時点で業務が終了するアドバイザーも多いかと思いますが、両社の理念や戦略、組織や人材、企業風土などをうまく統合して、M&Aの効果を最大化させるのが、本来のFAS業務です。
私は実際に多くの企業様を買収させて頂いた経験もありますし、M&A実行後のサポートも数多く手掛けてきましたので、買収して終わり、売却して終わりではなく、本来の目的を達成するまでしっかりとフォローしています。
もう1つの強みは、グループ会社に監査法人、税理士法人を併設しており、様々な領域の業務をシームレスに提供できることかと思います。幅広い分野のプロフェッショナルがグループ内に在籍していますので、成長途上のベンチャー企業が直面する資本政策上の課題から、大手上場企業が頭を悩ませる高度な経営課題まで、どのようなフェーズの企業であってもワンストップで対応できます。また、足許では弁護士法人と社労士法人をグループ化し、更にグループ力を高めることを検討しています。
--課題を挙げるとしたら、どのようなことがあるでしょうか。
現在、税理士や会計士が多く在籍していますが、ファイナンスに特化した人材をもっと強化したいですね。次世代を担う優秀な若手を増やせればいいなと思います。具体的なハードスキルは全く求めませんが、ポジティブで何か大きなモチベーションを持っている方がいいですね。金融の仕事は楽ではありませんので、何度も心が折れそうになるかと思いますが、その分の見返りは大きいです。大手FASでは経験やスキルが重視されますが、弊社はソフト面を重視していますので、積極的にチャレンジして欲しいです。
属人的だったFAS業界のシステム化を目指す
--大隅さんの今後の中長期的な事業展望についてお聞かせください。
私はITと金融に従事してきた珍しいキャリアですので、今後、ITを利用して業界的にブラックボックス化しているFAS業務をシステム化して、金融業界の業務を変革していきたいと考えています。FAS業務は、これまで個人の知識や経験に依存する属人的な仕事でした。それを可視化・システム化してノウハウが共有できれば、この業界がもっと成長するはずですし、若い世代の成長にも役立つでしょう。より良い人材が増えれば、経営や資本政策で失敗する企業も少なくなっていくはずです。
--最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?
最近は、M&Aを含むFAS業務を提供する会社が増えてきました。経営者の方の中には、サービス品質の違いが分からず、とりあえず知人の紹介に頼る方も多くいらっしゃるかと思います。当社も最近までは、原則として信頼できる方からの紹介案件のみ受け入れていたのですが、人材リソースも整備出来てきましたので、初期的には幅広い方からのご相談をお受けしています。もし迷われているならば、他社にご相談頂くとともに、一度弊社にもご相談頂けると嬉しいです。実行する予定の施策が、将来の経営や資本政策にどのような影響を与えるのかをリアルにお話し出来ますので、明確な品質の違いを感じて頂けるかと思います。
--本日はどうもありがとうございました。
株式会社エンジット・ストラテジー
Professional Onlineでは無料で経営者インタビューに掲載いただける方を募集しています。
お問い合わせフォームよりご連絡ください。
プロフィール
大隅 隆史