岩井 裕之(いわい・ひろゆき)
かっこ株式会社 代表取締役社長 CEO
1971年東京都生まれ。大学卒業後、CD・DVDの商社に勤め、営業やシステム企画を経て、企画部門のマネジメントに携わる。その後、オンライン決済関連会社にて、オペレーションおよび取引の審査部門のマネジメントを担当。約15年の会社員生活を経て、2011年1月にかっこ株式会社を設立。ECにおける不正対策のコンサルティングを事業としてスタートさせる。2012年6月にリリースした不正注文検知サービス「O-PLUX 」は国内シェアNo1(*1)に。2020年12月に会社を東証マザーズに上場させた。
*1 2021年5月末日時点。株式会社東京商工リサーチ「日本国内のECサイトにおける有償の不正検知サービス導入サイト件数調査」による
スマートフォンの普及や新型コロナウイルスの感染拡大で急成長するEC市場。一方で、ECサイトにおけるクレジットカードのなりすまし注文、不正転売・悪質転売、後払い未払い等の不正注文が増加しています。かっこ株式会社は、そういった不正注文を検知することで、不正被害の防止及び審査業務の自動化を実現する仕組みをSaaS型不正注文検知サービスとして提供しています。ECにおける不正検知ビジネスの現状と今後について、代表取締役社長CEOの岩井様にお話をお伺いしました。
15年の会社員生活を経て独立を決行。そのターニングポイントとは
--本日はよろしくお願いします。早速ですが、岩井さんが起業されるまでの経歴についてお聞かせください。
起業については、大学を卒業する前から考えていましたね。ですが、当時はまだ社会の常識やビジネスについての知識が少なかったので、現場でビジネスを勉強するために会社員として就職する道を選びました。最初に入ったのは、CDやDVDの商社です。当時、業界最大手の会社だったのですが、やがてCDやDVDが売れない時代になっていったこともあり、オンライン決済会社へ転職しました。そこで、ECや決済、システム開発など学ぶことができましたが、並行してビジネススクールに通っている時期もありました。同じスクールに通っていた美容室の経営者である友人に「そろそろ転職しようかな」と話したところ、意外そうな顔で「岩井さんは、次は起業すると思っていた」といわれ、その言葉にハッとしました。
大学を卒業する前は「いつか起業する」と考えていたのに、気づけば15年も会社員を続けていました。それまでは起業とは、待っていればチャンスの方からやってくるものと考えていたが、そうではなく、チャンスは自分が行動して作るしかないと改めて気づき、先延ばししないためにも先ずは起業する期限を2011年1月と決めました。
そして、決めた期限である2011年1月に、私を含む4名で会社をスタートさせました。当初は、教育系のビジネスモデルで展開しようと思っていたのですが、その教育系ビジネスはマネタイズが非常に難しいことに気づき創業2週間で諦めました。
--そこからどのようにして、現在のビジネスモデルを確立させたのでしょうか。
創業前から、コンサルティング会社の知人より「不正対策のプロジェクトを手伝って欲しい」と頼まれ、決済会社にいた経験も活かせると思い引き受けていました。プロジェクトも成功に導くことができ、その流れで不正対策の様々なコンサルティング業務を請け負うのですが、当時は不正対策のサービスそのものが世の中にはあまり浸透しておらず、各社独自で取り組んでいることに気付いたのです。
目の前で不正が起きているのに、対策の検討や準備、システム開発にたくさんの時間とコストが必要な状況でした。これまで培ってきた不正対策のノウハウを仕組み化すれば、もっと多くの人がスピーディーかつ低コストで不正対策ができるようになると考え、構想を考え始めました。
マーケットリサーチの一環として、知り合いの EC事業者を通じ「こういうサービス、どうですか」と持ちかけたら非常に反応がよかったので「これはビジネスになる」と確信し、今の主力ビジネス不正検知サービスをリリースすることにしました。
自社開発の不正検知システムだから低コストで柔軟なカスタマイズにも対応
--現在の事業内容について改めてお聞かせください。
弊社の事業は「SaaS(Software as a Service)型アルゴリズム提供事業」で、具体的には4つのサービスを展開しています。
1 不正検知サービス
「不正検知サービス」の提供が1つめです。これには2つのプロダクトがあります。まずはクレジットカード不正利用、悪質な転売、後払い未払いによる不正な注文をリアルタイムに検知するサービス「O-PLUX(オープラックス)」。もう1つが、金融サービスサイト(インターネットバンキング・ネット証券)、会員サイト、ECサイト等において、不正アクセス/不正ログインを検知するサービス「O-MOTION(オーモーション)」です。
2 マーケティングサービス
2つめが、主に小売・サービス業を対象としたローカル検索マーケティングソリューション「Uberall(ウーバーオール)」の提供です。ローカル検索では、サーチエンジンで、ある特定のエリアに関連する情報を検索した際に、検索エンジンの表示順位を向上させ成約率の高いユーザーを集客するなど顧客体験の向上や実店舗への来店数増加を支援するサービスです。
3 決済コンサルティングサービス
3つめが、主に後払い決済を提供する事業者に向けて、決済システムの提供や後払い決済事業の立ち上げ・運用のコンサルティングを行うサービスです。このサービスの提供とともに後払い決済の審査エンジンとして「O-PLUX」もご利用いただいています。
4 データ・サイエンスサービス
4つめのデータ・サイエンスサービスは、AIや統計、数理最適化の技術を使ってさまざまな分野にデータ解析やアルゴリズムの開発、提供を行い、企業のマーケティングや業務生産性などの課題を解決するものです。データサイエンスの技術を活用し、ニーズのある分野や自分たちと親和性の高いSaaSビジネスを見つけていきたいと考えています。
--貴社の独自性や強みについては、どう分析されていますか。
中核サービスである不正検知サービスにおいて、弊社の競合とされるところは、海外の製品をOEMのような形で日本に持ってきて国内で展開しているケースが多いです。そうした海外の製品と比べると、弊社の製品は日本語の解析能力が高い点も強みの1つで、具体的には日本語特有の漢字表記のずらしなども加味しチェックが可能で、特許も取得しています。
また、海外製品はクレジットカード不正に特化しているサービスがほとんどですが、当社は不正転売、後払いの未払いなど、様々な決済の審査が可能です。
また、自社開発をしているため、低コストでサービスを提供できる点をはじめ、導入や運用サポートも充実しており、各事業者に対し不正傾向の分析や傾向に合わせたルールの提案なども行っています。ECシステム・ショッピングカートとの連携を拡充しており、導入時のシステム開発が不要になるため低コストかつ短期間でご利用を開始いただけます。
料金体系も、月額4,000円から利用できるプランからカスタマイズ可能な保証付きプランなど、ニーズや状況に合わせ選択いただけます。多くのお客様に使っていただいている結果、より多くのデータの収集、分析ができるので、さらに精度を高めていくことができています。
国内で急増する不正に対するセキュリティを広める
--今後の中長期的な展望をお聞かせください。
今後の成長戦略としては、まず「O-PLUX」の潜在顧客に対して、アプローチしていくことが挙げられます。中国やアメリカなどでは、EC事業者が不正被害に遭うケースが数多くありますが、それに比べると日本での不正は比較的少ないといえます。そのため、被害にあったことがない場合、売り上げアップや新規顧客の獲得が優先され、セキュリティに対する意識はなかなか高まらず、対策をしているところがまだまだ少ない現状です。
しかし、ECのマーケットに国境はありません。すでにセキュリティが比較的甘いとされている日本のEC事業者が不正のターゲットとして狙われ始めていますので、不正対策ニーズは今後も高まっていくと考えています。
そこにアプローチしていくために、先ほどお伝えしたECシステム・ショッピングカートとの連携や低コストのプランを用意することで、より導入ハードルを下げ、EC事業者の安心安全に貢献していきたいと考えています。
--最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?
弊社の経営ビジョンは「未来のゲームチェンジャーの『まずやってみよう』をカタチに」することです。まずやってみる、そのチャレンジがなければイノベーションは起きません。
日本はここ20年間、GDPがほとんど成長していません。一方でアメリカや中国が成長を続けていることを考えると、日本は世界的に見ても相対的に貧困に近づいているといえます。
もしかしたら、子どもたちの世代には、やがて道路を作るアスファルトも他国から買えなくなって、戦後間もないころのようなボロボロの道路だらけの貧しい国になるかもしれない。そうした事態を避けるには、何度でもチャレンジしていってイノベーションを起こすしかありません。
弊社は、セキュリティ、ペイメント、データサイエンスの技術やノウハウを、多くの人により手軽に利用してもらうことでチャレンジや革新していくことを支援したいと考えています。そうした理念に共感していただける経営者の方がいらっしゃれば、一緒にトライできたらいいなと思います。
--本日はどうもありがとうございました。
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