脇坂真吏(わきさか・まさと)
株式会社AgriInnovationDesign 代表取締役
1983年北海道に生まれ、千葉育ち。東京農業大学に入学し農業経済を専攻、本格的に農業について学ぶ。入学後農業系の部活に所属し、数々のイベントに参加。日本野菜ソムリエ協会代表との出会いから大学1年でインターン、2年で八百屋立ち上げに参画、3年に店長を歴任。卒業前に退社し、学生起業をする。現在は、農業活性に関わるプロデュースや運営を精力的に行っている。
東京都内で事業を立ち上げ、全国の農業者のマーケティングやプロモーションなど、販路拡大を目的としたマルシェを開催する若手経営者がいます。マルシェのみならず、地方自治体や企業からの依頼で新規事業のプロデュースや、経営に関する公演やセミナーなど幅広く活躍する株式会社AgriInnovationDesign代表取締役の脇坂真吏様にお話をお伺いしました。
消費者側の一連の流れや課題を学んだ大学時代
--本日はよろしくお願いします。早速ですが、脇坂さんが起業されたきっかけをお聞かせください。
農業について学びたいという思いから、東京農業大学に入学し農業経済を専攻したのが最初のきっかけです。
大学時代は農業系の部活に参加し、面白そうなイベントに参加する中で、日本野菜ソムリエ協会の代表とお会いしました。そのご縁から大学1年時にインターンし、大学2年生の夏ぐらいから協会の八百屋の立ち上げに参加させていただき、大学3年生の終わりに3号店の店長を任されるまでになりました。細かい経歴は省略しますが、とても充実した大学生活を送ることができたと思っております。
農業では「生産者側」と「消費者側」の両面を考える必要があります。一方通行では成立しません。この両面における一連の流れについて大学時代に経験できたことは、今でも貴重な財産になっています。
大学卒業にあたり、他の学生と同様に就職活動をすべきか悩みました。しかし学生時代の経験から、農業関連の企業には様々な選択肢がある中で、日本の農業がまともな状況じゃないと感じたのです。産業構造として健全な状況になっているとはとても言えない、ということです。
今でこそ「農業ブーム」と言われてはいますが、そもそも農業業界には構造上の問題がありました。それが起因してか、農業は憧れを抱くどころか注目すらされない業界であることを身をもって知りました。
農業の活性化にのめりこんだ学生時代。私はこの業界をいつか「憧れる産業」にしたいと本気で思うようになりました。現在でも「農家を『小学生のなりたい職業1位』にする」という夢を掲げています。
八百屋の立ち上げや農業団体での活動から、農業に関心を持つ人は意外に多いことを実感しました。そこで「農業と人のマッチング」を実現できないかと考え、大学卒業前に思い切って起業しました。企業当初は、農業と大学生のマッチングイベントの運営や、フリーペーパーの作成に没頭していたのを思い出します。
--なぜ農業という事業を選んだのでしょうか。
私はもともと料理人になるのが夢でした。ですので高校卒業後は進学せずに就職しようと思っていたのですが、親から進学を強く勧められました。進学などまったく考えていなかったので、大学案内等を片っ端から読んで情報収集をしました。そこで唯一興味を持てたのが東京農業大学だったのです。「ここなら何かが学べるかも」という思いから受験し、入学しました。
しかし、他の学科と異なり、私が専攻した農業経済学科は現場に出る機会がありませんでした。そこで、少しでも現場を知りたいと思い「農村調査部」という部活に参加したのですが、大学1年生の5月に初めて実習に行って衝撃を受けました。魅力的な産業なのに斜陽産業化している現状を目のあたりにし、何とかして変えてみたいと強く思うようになりました。
マルシェで消費者と生産者両方の選択肢を増やす
--現在農業関連のプロデュース事業を中心に事業展開されていると思いますが、改めてご説明をお願い致します。
大きく区分けして4つの事業をおこなっておりますので、それぞれお話しいたします。
1.マルシェのプロデュース及び運営
2009年から開始された農林水産省の補助金事業で、日本にマルシェが導入されるようになりました。その時に考えたのが、消費者が食生活をおいしくて楽しいものだという感覚を持つために、地方の農家で作られる食材等に興味を持っていただくことが必要であるということです。
具体的には、消費者が農家を身近に感じていただくために、消費者が農家から直接買える機会、すなわち野菜の対面販売の機会を作ることが大切だと考えたのです。
私は消費者側に対して「気づき」を与えたいと思うようになりました。「鮮度の良い野菜は美味しい」ということに気づいていただき、食の選択肢を増やすことで、楽しく野菜を購入する機会を作ることが必要です。そういうことから、農業を様々な方に関心を持ってもらえるきっかけにつなげたいと考えております。
マルシェ導入にあたりもう一つ考えるべきは、出店側への作用です。農家、すなわち生産者側にばかり目を向けるのではなく、販売者側にも注力すべきです。たとえば、こだわり食材などを仕入れ販売している方や、自製のドレッシングを販売したい方はたくさんいらっしゃいます。そういう方々に、食に対して何かを発信していただき、消費者と直接接触する機会を作ることが必要です。販売者側は、消費者と直接接触できるので、消費者のニーズを肌で感じることができます。マーケティングにも有用なだけでなく、自分の仕事に対しての生きがいや未来を見出すことができます。
問い合わせも非常に増えてきています。昨年までは東京からの問い合わせがほとんどでしたが、今は北海道など他の地域からも問い合わせが来るようになりました。マルシェの開催頻度の高さや範囲の広さについては、弊社が日本一であると自負しております。もっと拡大したいという思いから、一昨年マルシェに関する書籍(ノウハウ本)も出版しました。
マルシェは弊社だけではとてもできませんし、その必要もないと思っております。マルシェに関心があり「やりたい」と思ってくれる方が増えることが重要です。それを契機に、食や農業の新しい切り口が作っていきたいと考えています。
2.農業関連のプロデュース及びコンサルティング
ほかには、地方自治体のプロデュースやコンサルティングなどをおこなっております。先方に事前インタビューし、課題をいただいた上でプロデュースをしております。鹿児島の屋久島に1年間入り込んでプロデュースした実績もあります。
今は北海道の東神楽町とご縁をいただき、プロデュースをさせていただけるようになりました。地域における様々な課題を洗い出し、解決策を打ち出す形で行っています。
3.地域活性のプロデュース及び運営
農家が経営する八百屋や道の駅、廃校になった小学校を新しく大学にする等といった取り組みが、最近増えてきています。農業だけでなく地域の活性化を目的に、人材育成や観光などもプロデュースの仕掛けをさせていただいております。
地方には、情報やネットワーク不足や、閉鎖的なコミュニティ等の問題があります。その環境下で限られた人たちで何かをしようと思っても、閉塞化してしまいがちです。そこに食い込み、一緒に作り上げることが重要であり、ひいては地域の活性化につなげています。
4.セミナー、講演会 など
農家向けのセミナーや農家個別のコンサルティングなどもしています。
他社が「やれない」「やらない」ことをやることが強み
--貴社の独自性や強みについてお伺いできますでしょうか。
農業支援というと真っ先に「販売」へ走りがちです。確かに販売強化は重要ですが、単価が安く日持ちのしない生鮮品の流通販売は難しく、なかなか長続きしません。そのため、一時的な収益よりも、永続的な収益向上を目指すことが重要です。
マルシェを行うことにより、様々なことが学べます。販売額を増やすことももちろん大切ですが、それだけに留まりません。マルシェにはない価値が存在することを知ることが重要であると思っています。
マルシェという売り場があり、自社でセレクトショップやEC販売等のチャネルをもつ事業者があるとします。しかし、様々なチャネルがあるのに売れない。この「売れない」という地方事業者の最大の問題を、我が社の持つ「売れる」仕組みとノウハウを駆使してサポートができることも、弊社の強みであると考えております。
弊社サービスの強みは、他社が模倣できないことを行い、参入が難しいところを狙っていける点です。それが競争戦略上は重要であり、結果としてブルーオーシャン上でビジネスが展開出来ていると思っております。
農業においてもITの進出は著しく、農業会でも盛んに話題に上がるようになりました。実際、8割の農家が何らかの形でITを活用しております。ITの活用は至上命題であります。しかし当社は、IT導入だけが重要であるとは考えていません。ITだけでは、国内外における食品の流通やブランディング、ニーズの掘り下げまではカバーしきれないと考えているからです。
既存のものをどのようにして販売し、ひいてはお金を稼げるようにしていくか。それは現場に関わることでしか体感できません。現場感を持ち、全国の自治体や農家さんとネットワークを構築しつつ、都内のディベロッパーさんと連携して「マルシェ」という販売網を作っております。地域プロデュースをしながら、マルシェの運営を行う。決して簡単にはできない取り組みを実行し結果を出している。ここに強みがあると思っております。
当然のことですが、継続的にマルシェ出店者を集められるかが重要なカギになります。簡単にはいきませんが、弊社の全国的ネットワークと特殊な事業スキームを駆使して、ニーズを掘り起こす努力を怠らない限り、他社との競争には負けないと思っております。
--ありがとうございます。では、貴社の課題はありますでしょうか。
人材のマネジメントですね。このビジネスは、中央集権的な手法が通用しません。ですので、局地的に会社を作る必要があります。30名ほどの会社を1つの単位として、単位ごとの人材マネジメントしていくためのスキーム作りが課題であると認識しています。
そして、事業スキームのIT活用が急務です。この業界、ITリテラシーが高いとは言い難い現状があります。ITツールをもう少しうまく活用することができれば、さらなる発展の余地は十分あると考えております。
新型流行性ウイルスはまだまだ収束せず、心配は尽きませんが、見えてきた問題は山ほどあります。たとえば印鑑の使用は、これまで違和感なく印鑑を使用してきましたが、決済で使用するために東京本社まで出社して対応するなど業務上の改善点があることを、新型流行性ウイルスにより気づかされることとなりました。
これまで普通に行われてきたムダな業務を、次々に効率化していくことが重要です。そうすることで生産性向上を目指していかなくてはなりません。
困ったときに相談できる相手が少ない、というのも悩みの種です。相談できる機関を探すのは意外に手間で、地域活性事業の展開に際して専門家の知見を得たいと思っても、専門家へたどり着けない悩みは結構あります。地域の商工会等やコミュニティを通じて、困りごとを相談できるような流れを創っていくことも重要だと思います。
「小学生のなりたい職業1位を農家にする」が、これからも変わらない方向性
--今後の中長期的な事業展望についてお伺いできますか。
「小学生のなりたい職業1位を農家にする」というビジョンは、これからも掲げ続けていくつもりです。このように、わかりやすい言葉で伝えることが重要だと思っております。どんなに発展手も、この思いはブレることなく持ち続けたいと考えております。
トレンドは日々変化するものです。トレンドが変われば、困りごとも変わります。その変化に対応しプロデュースをし続けることが、今後の事業の課題であると思っております。
今「第三次マルシェブーム」と言われております。この時流に上手に乗っていき、マーケットを定着させることで、マルシェ事業を拡大し続けることが重要です。そして当社は「日本一マルシェを運用する会社」であり続けたいと思っております。
地域活性のロールモデルを作りながら、他の自治体とも連携し、弊社が持つリソースの価値観を融合させることにより、事業を広げていければ最高ですね。そしてこれからも、周囲が参入できない領域にて、他社が模倣できないことを、弊社が先駆けてやっていければと考えています。
--最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?
個人的には「仕事は楽しくするもの」であると考えていて、私にとって重要な価値観の一つであり、かつ向上心につながっております。仕事とは言え、一定の時間を費やす以上は「楽しく」行うべきです。楽しく仕事をすることで質が高まり、結果として生産性が向上すると思います。
何かお困りごとなどがありましたら、お気軽に相談していただけたらと存じます。
--本日はどうもありがとうございました。
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プロフィール
脇坂 真吏