稲森学(いなもり・まなぶ)
株式会社アドインテ 取締役副社長兼COO
1986年生まれ。通信会社で営業として働き20歳で起業。24歳で自身の会社の株式を売却し、株式会社イーファクター大阪支社立ち上げに従事。その後、2度目の起業で、SNSに特化したマーケティング会社を設立。2016年に株式会社アドインテと合併し副社長に就任。アドインテでは、DX推進事業部とセールス部門を統括。その他、資金調達や新規サービス立ち上げ、アライアンス業務など幅広く担当。
人々の価値観や、新型コロナウイルス感染症の影響で様変わりした生活者の消費・購買行動、Eコマースの攻勢によって、小売業界を取り巻く市場背景は大きく変化しています。人口増加という前提が崩れた今、「物を売る」だけではなく、時流に見合ったビジネスの展開が必要となっています。そのような中、多くの会社はDXの推進の必要性から様々なテクノロジーやデジタル技術など積極的に活用を進めていますが、部署ごとの最適化に留まるなど、DX推進がうまく進んでいない企業も多くあると思います。小売業界の活性化の一つに、海外のウォルマートやクローガーのような、店舗の持つデータやオンライン・オフラインのタッチポイントを活用したリテールメディア構築を日本で推進し、国内トップクラスの構築実績をもつ株式会社アドインテ取締役副社長兼COOの稲森学様にお話を伺いました。
自分なら絶対に売れる!と合併を決意
--本日はよろしくお願いします。早速ですが、稲森さんのこれまでのキャリアやCOOご就任のきっかけをお聞かせください。
18歳から様々な商材を売る営業会社のセールスとして働いていたのですが、先に起業した先輩がインターネット関連の商材を販売している方が多く、そうした先輩たちの姿を見て20歳で最初の会社を起業しました。
その後、24歳の時に会社の株式を売却して、株式会社イーファクター(現:株式会社メタップス)に入社し、大阪支社の立ち上げメンバーとして参画しました。その頃は勢いだけで仕事をしており、もう一度勉強し直す必要があると考えていたので、いくつか候補もある中でも同じ年齢の社長が経営しているイーファクターという会社を選びました。短い期間でしたが、この数年間で学んだことがものすごく活きていると思います。
--その後、どのような経緯でアドインテとの繋がりが出来たのでしょうか
2度目の起業としてSNSに特化したマーケティング会社を設立した際に、経営者の知人からアドインテの現代表を紹介いただきました。アドインテもSEOやweb広告などに取り組んでいたので、当初はお互いの業務にプラスになればということだったのですが、対面してすぐに「合併しよう」と声をかけて頂きました。
それまでSEOやweb広告の仕事に関わり、先行している企業に勝つことの難しさや、SEOについてもGoogleのアルゴリズムによって大きな打撃を受けるケースも多く、OSやプラットフォームのアップデートに左右されないビジネスを展開する必要性を強く感じていました。
そうした時にアドインテの十河社長と会い、独自で開発したという端末「AIBeacon」を見せていただいたたのです。当時はオフラインデータを収集してビジネスをやるイメージは持てていなかったため、衝撃的でした。今までデータになっていなかったオフラインデータを収集し、デジタルの世界に持ち込めることは、これから先必要になると確信しました。ただ、「なぜ、売れないのですか?」「本当に自社で開発してますか?」と最初はすごく疑っていたと思います(笑)。 私にはその端末が売れない理由が見つからず、自分なら絶対にアドインテの力になれると思い、2016年に合併して副社長に就任しました。
現在は主にセールス部門、DX事業部の統括をしています。
リアル空間をデータ化する
--貴社の主軸事業について詳細にお伺いできますか?
現在最も力を注いでいるのは、リテールメディアという小売企業が保有するID-POSデータや会員ID、店舗の来店履歴やWEBの閲覧履歴などをDMP/CDPに蓄積し、購買行動を分析した上で、自社アプリや外部メディアを使って広告配信できるデータ基盤の構築と運用です。
海外ではウォルマートやクローガーなどが広告事業に参入しており、2017年にその記事を見た時から、必ずデジタル広告の市場もリテールを中心に大きく変革すると思っていました。リアル店舗の来店データをCookieのように扱いながら広告事業を推進するイメージをしていましたが、オフラインデータをデジタルの世界に持ち込む可能性を完全に形にしていたのがリテールメディアというビジネスモデルでした。
Cookieデータを活用したリターゲティング広告のように、使い古されたWEBの閲覧履歴ではなく、これまでデジタル広告の世界になかったオフラインのデータをもとにして、様々活用できるのは、今後のCookieレス時代に向けて有用な施策だと思っております。
--いわゆる「動線分析などのツール」はいくつかありますが、貴社の強みはどういった部分にあるとお考えですか。
AIBeacon以外にも、赤外線やNFC、AIカメラなど、これまでデータ化できていなかったオフラインの情報をデータ化するソリューションを自社で複数持っている点だと思います。
独自開発した「AlBeacon」は従来のBeaconが持つ欠点をクリアにしたIOT端末で、BLEとWi-Fi両方での検知が可能で、連携アプリがなくてもWi-Fi設定onのスマホ端末を個人情報を取得することなく計測が可能です。取得した情報はDMPに格納し、CRMとの連携によりユーザーへのONE to ONE施策や様々なマーケティング施策に活用できるのも大きなメリットだと思います。
小売業ではリアルなトラフィックはたくさんあるものの、それらがデータ化できない、膨大なデータを分析ができない、分析はできても施策に繋げられないなど様々な問題があります。弊社では、こうした問題解決に向けたサービスをワンストップで提供可能です。
--技術開発はどのような体制で進めておられますか。
100名強の社員のうち、4割程度がエンジニアやデータ分析・運用メンバーで構成されており、彼ら中心で進めております。当社にはハードを作れるスタッフも在籍しています。例えば、全面デジタルサイネージになったタッチパネル式の自動販売機を開発しており、メーカー様の試供品やサンプル配布をすることが可能です。通常は街頭でのサンプル配布はデータ化しにくいと思いますが、弊社ではそれが可能になり、後の施策へと繋げていくことができます。
その他、DMP/CDPの構築、アプリ開発、データ分析など、リテールメディア構築における必要スキルは、自社で対応できる体制を構築しており、大きな強みだと考えています。
--こうしたシステムの導入は、店舗にとってまだハードルが高いイメージがあるかと思います。実態はいかがでしょうか?
2016〜2018年頃にリテールテックというキーワードと共に加熱してきましたが、やはり導入に対するハードルは高いのが現状です。
当社は小売企業を対象としているのですが、元々小売企業へのセールス活動はしたことがなかったので、アポイントを取るのもすごく苦労しましたし、担当役員の方に面会することが最初は一番難しく、会えたとしてもそこから話を進めることが全くできませんでした。リテールメディアというビジネスモデルのイメージはあったものの、アポイントの難しさやPOCの期間の長さ、データを預かるためのハードルの高さなどを痛感し、最初の1社様の取り組みまでに結局数年かかりました。
しかし最近の小売業界はDX推進の動きが加速し、買い物体験の向上やONEtoONEのコミュニケーションを取っていくためにも、CDP構築により顧客理解を深める分析をするといったデータを活用した経営にシフトしており、5年前と比べるとデータ活用や導入に対するハードルは格段に下がってきたと感じます。
実店舗がある小売の強みが再認識されてきたことや、機器の価格がリーズナブルに提供できるようになったこともハードルを下げるいち要因になっていると思います。
--小売業界全体がリテールメディアの必要性を実感しているということですね。
そうですね。海外と日本の小売市場は全然違う部分がありますので、一概には言えないですが、数年前に比べると必要性は確実に高まってきたと思います。海外の小売市場は、上位数社で業界のほとんどの売上が構成されているケースがほとんどですが、日本は上位企業を合わせても30%に満たない市場構成になっているので、それほど地方含め分散されているということだと思います。
あとは、人口構造が変化してそもそもの国内需要自体が減少してしまうのは避けられず、さらにコロナウイルスの影響による、Eコマースへの変化も顕著です。これまでのビジネスモデルは人口が増えていくことが前提になっていたので、そうした前提のもとに小売ビジネスは伸びてきた背景もあると思います。
しかし、これからの社会情勢に対応するためには、一人一人の顧客に合ったメッセージを届けてLTVを上げることや、サプライチェーンを最適化するなど、データを活用したDXを進める必要があります。メディアやプラットフォーマーが購買ポイントにサービス拡張してきたのと同様で、今度は購買ポイントである店舗がメディア機能を兼ね備えていくのも必然の流れなのかなと思います。
とはいえ、DXの推進には部署の横断が不可欠でITに通じた人材の確保も必要となり、推進は難しいのが現状です。それだけに、DX事業はトップが意思決定して直系の横断的な部署で進めることが大事だと思います。
リテールメディアの先駆けとなる
--今後の中長期的な事業展望についてお伺いできますか。
海外の流通大手が行っているリテールメディアのモデル構築を国内でいち早く進め、日本向けにカスタマイズした形を模索し、スピード感を持って進めていきたいと思っています。一番は購買体験の向上が目的ですので、ユーザーに取って何が良いのかをしっかり考えて進めていきたいと思います。
また、リテールメディアはデータ活用の一つの方法にしかすぎないので、今後は、店舗オペレーションに活かせる方法にもチャレンジし、更にはフードロスや廃棄ロスに関連したサービスを小売業の皆様とと一緒に作っていくRaaSモデルへも挑戦していきたいと思っております。
--最後にProfessional Onlineを見ていただいている方に向けてメッセージをいただけますか?
私たちの強みはソフト、ハードの開発力と保有しているオフラインデータです。
リテールメディアに関しましては、スーパーマーケット、ドラックストア、ホームセンターや家電量販店といった小売業界、家電や化粧品、日用品、飲料のメーカーなど、データを活用したDXの推進、小売のデータを活用した新しいサービスの開発、オンラインとオフラインを統合したデータ分析などでは、国内でトップクラスの支援実績があります。
リテールデータの価値は更に向上すると考えており、EUにおける「GDPR(EU一般データ保護規則)」や米国 カリフォルニア州での「CCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)」、Googleから発表された3rdパーティCookie利用の段階的な制限など、WEB広告の活用方法が世界的に見直されるタイミングとなりました。
このような規制は、WEB広告業界に大きな影響を与えることになり、精度の高い広告配信や広告効果の分析も含め、様々なサービスの利用が制限されてしまいます。 プライバシーに配慮し、3rdパーティCookieに依存しないデータ活用や広告効果の高いマーケティングソリューションの開発を進めてまいりました。
まだ日本においては決まった成功パターンや正解は確立されていないので、是非、一緒にチャレンジして頂けると嬉しく思います。ご興味のある方は、是非ご連絡くださいませ!
--本日はどうもありがとうございました。
株式会社アドインテ
https://adinte.co.jp/
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プロフィール
稲森 学
会社情報

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