原田 典子(はらだ・のりこ)
株式会社AI CROSS 代表取締役社長
1998年慶應義塾大学経済学部卒業。ドイツ系ソフトウェア企業、SAPジャパンでテクニカルコンサルタントとして働いた後、システム開発ベンチャー企業に入社。同社アメリカ法人設立のため渡米。シアトル、サンノゼ、ニューヨークなどでアメリカのネットビジネス、ITトレンドの調査及び提携・アライアンス業務などを行う。2015年3月より現職。
近年、多種多様なAI企業が登場して生活の至るところにAIが組み込まれるようになりました。同時に、生産性の向上を目的とした「働き方改革」が一般化する中で、AIを活用した業務効率化サービスで2019年にマザーズ上場を果たした企業が株式会社AI CROSSです。
米国で流行していたSMS(ショート・メッセージ・サービス)配信をいち早く日本に取り入れ、HR領域への展開も始めた株式会社AI CROSSの成長要因やこれからの展望について、上場企業の1%しかいない女性経営者の一人でもある原田典子代表取締役にお話をお伺いしました。
日本と米国の文化の違いから目をつけたSMS(ショート・メッセージ・サービス)
ー 本日はよろしくお願いいたします。まずは、起業に至った経緯をお聞かせ下さい。
はい。私は学生時代のほとんどを海外で過ごし、外資系企業でキャリアをスタートしました。
その後も、国内スタートアップのアメリカ法人で働いていましたので、仕事の成果を大切にし、私がどこで何をしているのかは気にしないというアメリカのビジネス文化を当たり前だと思っていました。
ところが、帰国した時、日本のオフィスでは私がどんなことをしているのかにフォーカスを当てられることが多く、息苦しさを感じました。子供を預けることにも苦労しましたし、「働く女性」として見られることにも違和感を覚えていました。
自分のような人間がもっと働きやすい環境を作れるサービスを提供できないか、という思いを持ち始めた時に、当時アメリカで一般的に利用されていたSMS(ショート・メッセージ・サービス:電話番号を宛先にして短い文章を送受信できるサービス。国際規格のため、基本的に世界中の携帯端末で送受信が可能。)の存在に可能性を感じ、日本企業の業務効率化を目的にSMS配信事業を始め、その後、分社化、そしてMBOして独立しました。
AIで誰もが働きやすい環境を作る
ー ありがとうございます。では、事業内容についてお聞かせください。
はい。弊社では「Smart Work, Smart Life(スマートワーク・スマートライフ)」という、テクノロジーでビジネススタイルをスマートにしていくことをミッションに掲げています。
これは、出来る限り業務を効率化しつつも、アウトプットの最大化を図っていこうという考え方です。
コミュニケーション領域においては、近年、顧客とのやりとりにITを導入して効率化する動きが広がってきていますが、メルマガやDMなどメッセージを配信するだけで完結してしまっているケースも多いです。
弊社では、SMS配信とAIを連携して顧客の動向や属性を分析し、一人一人に合ったメッセージを送ることで、単なる業務効率化だけでなく自社へのエンゲージメント(企業への愛着)をより高められるはず、という思いのもとSMS配信事業を展開しています。
ー SMSで受け取ると、つい開いてしまう経験が私も何度かあります。
そうなんです。SMSの開封率は高く、アメリカでは1日に10〜15通くらいSMSを受け取るのですが、30分以内に開封する確率は90%以上となっています。
日本ではアメリカと比べSMSの配信数が少ないため開封率はより高まる傾向にあり、メルマガやDMを一斉配信するよりも成果につながりやすいのではないかと考えています。
ー その後、HR領域にも事業を展開されていますね。
パフォーマンスを最大化させていくためには、業務効率化の他にもう一つ、働く人のモチベーションを高く維持していく必要があるという思いから、HR領域の展開を始めました。
先日リリースした「HYOUMAN BOX(ヒューマンボックス)」というサービスでは、適性検査を行い、従業員の性格と意欲をAIによる分析を通して可視化します。
適性検査の結果を30年くらい分析してきた会社がありまして、その分析によると、人の性格はなかなか変わらないのですが、働くことに対する意欲はその人のポジションや指導の方向性によって大きく変化していくことが分かっています。
一人一人の性格や意欲に合わせて人事施策を行なっていくことで、従業員からのエンゲージメントを高めていき、パフォーマンスを上げていくことが可能です。
このように、顧客からのエンゲージメントを高めて良い関係を築いていくことと、従業員の働きやすい環境を整えて自社に対するエンゲージメントを高めることが、結果的にアウトプットの最大化に繋がると考えており、「Smart AI Engagement(スマート・エーアイ・エンゲージメント)」という事業全体のコンセプトになっています。
ー 近年のDXや5Gの流れを受けてAI業界はますます注目を浴びていますが、これまでどのように事業を成長させてきたのでしょうか。
はい。お客様のIT化の状況やITに関する知識量に合わせて、一人一人に寄り添った提案をしていくことが大切だと考えていました。
お客様のITリテラシーは様々で、IT化は行っているもののまだデータを収集する仕組みができていなかったり、データは集めているが活用できるものなのか、どう活用して行けば良いのか悩まれていたりする場合もあります。
そういったお客様の状況をきちんと把握して、適切な人材を配置していくことが大切だと考え丁寧なコミュニケーションを行なってきました。
また、日本国内ではよくペーパーレス化も進んでいないと言われますが、紙を使うことにもメリットがあります。
例えば、内容証明郵便は郵便物の内容を郵便局がきちんと証明してくれるので、その信頼感から使われるケースも多いと思います。
DXが進む中でも、企業には信頼できる仕組みが求められていて、携帯キャリア企業が運営しているという信頼感がSMSを利用していただける理由になっているのではないかと感じます。
ー しっかりと顧客に寄り添ってきたことで成長を実現されてきたのですね。特にどのような企業に使われることが多いのでしょうか。
現在はこれといった偏りはないですが、SMSサービスの開始当初は、金融系のお客様にご利用いただくことが多かったです。
最近は、本人認証を使いたいアプリサービスの企業様や、歯科医院様、飲食店舗様など本当に幅広い企業様にご利用いただいています。
女性経営者の新しいあり方を示す
ー 上場企業のうち1%しかいない女性社長であり、役員の女性比率が日本で2番目に高い企業であることから、女性活躍推進企業としても注目を浴びていますが、女性の活躍をさらに推進していくために必要だと考えていることをお聞かせください。
前提として、政府や企業、各個人においてそれぞれがやるべきことはあると考えていますが、そもそも私の世代は、父親は外に出て働いて、母親だけが家にいるというような姿に見慣れていて、それが当たり前でしたので、外に出て活躍する女性の姿をうまくイメージできない面があると思います。
また、日本は女性経営者として参考になる成功例がまだ少ないです。男性と比較したときに、これまで成功してきた経営者とは異なるモチベーションの方や、一人で全ての責任を抱え込んだりしてしまう方が多いのではないかと感じており、自信がなくなって私のところへ相談に来られる方も多いです。
そのような状況の中で、私個人として出来ることは何だろうか、と考えたときに、彼女たちに自信を持たせてあげていきたいと考えています。
全ての業務を一人でこなすことが難しいのであれば、「HYOUMAN BOX」を通じて、適材適所な人材を配置できるように支援していく、というような活動ができるのではないかと思っています。
ー ありがとうございます。最後に、原田社長の今後の目標についてお伺いできますか。
はい。まず、事業としてはSMS事業とHR事業に注力しグローバル市場を狙えるサービスを日本発で作りたいという思いがあります。
また、個人的には、代表的な女性経営者がまだ少ないので、弊社の企業価値を大きく成長させたいと考えています。
女性経営者の成功事例が少ない中、数少ないカリスマ経営者の例を見て「私は彼女と比較したら普通の人間なんです。」と自信をなくしてしまうような女性経営者に対して、新たな女性経営者の成功事例としての姿を示し、彼女たちの背中を押してあげたいです。
ー 本日はどうもありがとうございました。
AI CROSS株式会社
SMS配信サービス「絶対リーチ!」
企業のための戦略人事 AI アナリティクス「HYOUMAN BOX(ヒューマンボックス)」
http://aicross.co.jp/hyoumanbox/
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