長坂 剛(ながさか・ごう)
エーテンラボ株式会社(A10 Lab Inc.)代表取締役CEO
1982年静岡県生まれ。2006年東京工科大学メディア学部卒業後、ソニーに入社。BtoBの営業やプレイステーションネットワークのサービス立ち上げに携わる。ソニーの新規事業創出プログラムから独立しエーテンラボ株式会社(A10 Lab Inc.)立ち上げる。ソフトバンクアカデミア外部1期生。
人は、積極的に行動を起こすことで幸せを感じることが分かっているそうです。エーテンラボ株式会社(A10 Lab Inc.)は「テクノロジーでみんなを幸せにする」というミッションのもと、デジタルピアサポートで「始められない」「続かない」という人たちを楽しく行動変容させるために「みんチャレ」を開発しています。同社は、ソニーの新規事業創出プログラムから独立した会社としても知られています。三日坊主防止アプリ「みんチャレ」で運動・勉強・生活習慣の改善などの習慣化をサポートし、多くの人が行動変容できる世界を目指すエーテンラボ株式会社代表取締役CEO長坂様にお話を伺いました。
ソニーの新規事業創出プログラムが企業のきっかけ
--本日はよろしくお願いします。早速ですが、長坂さんが起業されたきっかけをお聞かせください。
新卒でソニーに入社し、そこではBtoBの営業や新規事業の開発や企画などに携わりました。その中で自分が考えたアイディアを事業にして良いというソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program」から、現在の「みんチャレ」の前身になるようなアイディアを創出しました。
その後、ソニーから「みんチャレ」をリリースしたのちに独立させて頂き、エーテンラボ株式会社(A10 Lab Inc.)を創業しました。
自身のアイデアを商品化したいという思いが起業のきっかけです。ソニーからは独立した形で一般のスタートアップとして起業し、開発運用を続けています。
--元々独立や起業などは考えていらっしゃったのでしょうか。
ソニーでの仕事はものすごく楽しく充実しておりましたので、会社員時代はまったく考えていませんでした。ソニーコンピュータエンターテイメントというゲームのカンパニーにいたのですが、ゲームが好きだったので仕事と趣味が全部同じで楽しかったことを覚えています。
みんチャレのアイディアを思いついて、事業化したいと考えたときに、大企業の中で行うよりも独立してスタートアップとして事業を起こしていったほうが、成功すると考えて、そのタイミングで独立を意識するようになり、活動するようになりました。
--ソニーに入社することを選ばれたきっかけについてお聞かせください。
当時はありがたいことに通信キャリアやゲームメーカー、メーカー、IT大手など様々な企業から内定をいただいていましたが、その中でもソニーはゲームや音楽、アニメや映画など多くの事業を行なっており、可能性の幅が広いと感じました。私自身好奇心が強く最先端の技術が好きだったこともあり、最先端の事業に携わっていたい思いを持っていたのです。
新卒時期が就職氷河期最後の時代だったのですが、当時のソニー社も業績が落ち込んでいた時期で、そのときに「業績が悪いと言うことは今までのやり方が悪かったということ。新しい人の声が取り入れられるはず」「自分が活躍できるのではないか」と考え、入社を決意しました。
いざ入社してみると、先輩方の築いたブランドや技術の上で最初から大きな仕事に携わらせていただける機会が多く、新しいことを次々に行わせてもらえる会社で、新人だからという事ではなく、手を挙げた人に機会がある会社だったので、非常に楽しく仕事をさせていただきました。
行動変容をして習慣化させるサポート
--現在健康習慣アプリ事業を中心に事業展開されていると思いますが、改めてご説明をお願い致します。
今弊社が提供している「みんチャレ」というサービスは、行動変容と習慣化のためのアプリです。新しい習慣を身に付けたい5人でチームを組み、チャットで励ましあいながらチャレンジをする習慣化アプリになっています。
習慣化に対する課題として、ダイエットや勉強など多くの方が「やる気はあるのに続かない」という三日坊主になってしまうケースです。他にも今まで何度も挫折をして、新しいことをはじめる第一歩を踏み出せないというケースもあります。
糖尿病の運動療法の継続が必要な場合など、同じ悩みを抱えている人が繋がれず、1人ではなかなか続かないという課題がありました。それを、同じ目標を持った5人で励まし合いながら楽しく続ける環境をアプリの中で続けることで、習慣化に取り組めるようになるのが「みんチャレ」です。
アプリの中では一日一回その日の生活習慣を報告することがルーティーンになっています。報告するタイミングで、今日何をどうやったか、何歩歩いたかなど目標に届いていない場合は自分自身が認知することにもなります。
同じ目標の人たちとサポートし合うことによって「明日も頑張ろう」という気持ちになったり、他の人が1万歩歩いたと報告してきたら自分への刺激にもなります。同じ目標の人たちとピアサポートすることによって、行動変容が続く仕組みになっています。
AIのチャットボットがチームビルディングをサポートしたり、チームに歩数や食事を報告することによって健康データがたまり、データを見返すことで自分の行動を変えていくことができるようにもなっています。
「みんチャレ」の中のゲームフィケーションで、習慣を続けるとコインが貯まり、寄付できるようにもなっているので、自分の努力が社会貢献に繋がるなら頑張りたいというユーザーに好評な仕組みになっています。
--「みんチャレ」が出来上がった背景について教えてください。
みんチャレを作る前に別のアプリを作っていたのですが、思いは「人を幸せにしたい」というものでした。テクノロジーが大好き、ゲームが大好きだったのですが、ゲームフィケーションには「人を幸せにする技術」「人をはまらせる技術」がたくさん使われています。
ゲームをしているときは幸せだけど、ゲームが終わると同時に幸せも終わってしまうので、それを現実世界で使って、現実世界の人を幸せにしたいという思いが沸いてきました。
そこで試行錯誤していくつかのアプリを作って行く中で、人は自分が積極的に行動をすると幸せを感じるということで、ゲームを現実世界に置き換えたらどうなるか考えてみました。
コミュニケーションに注目したところ、幸せを強化するためには反応が返ってくることが重要だと気づき、反応をユーザー同士のコミュニケーションの中にうまくデザインできれば、楽しく行動変容できるアプリができるのではないかと構想したことがきっかけです。
--貴社の独自性や強みについてお伺いできますでしょうか。
一番はエンゲージメントが高いところにあります。エンゲージメントとは、毎日起動されるかどうかということで、国内外のトップヘルスケアアプリと比べて5倍のエンゲージメントがあるということが強みです。現在は100万人以上のユーザーにアプリを使っていただいていて、Google Play ベストアプリを通算3度受賞しています。
最大の特徴はユーザーからの評価が高いところで、アップルストアでのレビューは5点満点中平均4.7をいただいています。
そのほかドラゴン桜の作者様や制作者様がみんチャレのユーザーということで、漫画の中でも紹介していただいて、使っていただいた方から好評で口コミも広がっています。
続けるからこそ効果が出るということで、糖尿病と予備軍の方に臨床研究を行わせていただきました。みんチャレを使わないよりも使っているグループのほうが平均歩数が2倍に増えたという研究結果も出ています。
ヘルスケアアプリはいくつもありますが、なかなか効果が出ない・続かない課題がありましたが、続けられることをキーにして効果を出せるアプリとして今後発展させていきたいと思っています。
人を行動変容させるための技術をアプリのいたるところに設計しています。心理学や行動経済学の研究成果をアプリに実装し、テストして良かったものだけを残しています。アプリを進化させていった結果、今のエンゲージメントができているので、どのように作っていくかなどのノウハウも強みのひとつではないかと考えています。
まずは使っていただき、習慣化をサポート
--現在課題としてとらえているものはどのようなものがあるでしょうか。
みんチャレアプリは使えば行動変容をして目的を達成することができるのですが、使い始めないことには効果が出ないので、どう使っていただきか、どう知っていただくか、どうはじめていただくかが今後注力していくべき課題だと考えています。
--課題に対して何か施策のようなものはとられていますか?
健保向けに禁煙プログラムの提供を始めたのですが、そこでは禁煙を始めるきっかけの行動変容を促すソリューションも弊社で開発し「みんチャレ」と合わせて提供しております。その結果従来のオンライン禁煙プログラムより20倍の参加率を出すことに成功しました。
また、自治体や様々な企業様と連携を進めています。たとえば、自治体や地域の包括支援センターと協力し、アクティブシニアの方を集めてみんチャレ講座という講習会をひらき、使ってもらえるようなはじめのきっかけを作っています。
他の企業やヘルスケアアプリと連携し、企業の抱えるユーザーの習慣化をサポートするなどもしています。顧客接点や行動変容をさせたいユーザーを抱えている企業や団体と組んでみんチャレを広げています。
--新型コロナウイルスの影響でDL数が3倍に伸びたと伺っております。要因についてどう考えていらっしゃいますか。
健康意識の高まりということもあり、みんチャレだけでなくヘルスケアアプリ全体のダウンロード数が伸びました。特に人と会わないで良い、オンラインで完結できることが注目を集めた要因では無いかと考えています。
また、新型コロナウイルスの影響で孤独が問題視されるようになりました。同じ目標の人で集まるみんチャレはある程度話題が限定されているので、自分の興味関心や抱えている課題ごとに気軽に話し合える場として、孤独の解消の場としても解決できているところも伸びたポイントではないかと思っています。
--今後の中長期的な事業展望についてお伺いできますか。
はじめは習慣化が目的のアプリとしてリリースしましたが、運用していくことで、生活習慣の改善や糖尿病の食事・運動療法など病気の療養目的で長期間利用している方が多いことがわかりました。
最近はヘルスケアや医療の分野で使っていただくことに注力しています。今後も各店舗、企業、医療分野での利用促進に注力していきたいと思います。
--最後にProfessional Onlineを見ていただいている経営者、決裁者の方に向けてメッセージをいただけますか?
健康経営に力を入れたい企業様や、健保組合の方、ヘルスケア事業をお持ちの方などのお手伝いをさせていただきたいと思っているので、お声がけいただけたらと思います。それぞれの事業で、より良い社会を一緒に作っていきましょう。
--ありがとうございました。
エーテンラボ株式会社(A10 Lab Inc.)
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